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2019年5月 5日 (日)

愉快なユーモア短編集-39- 通り雨

 時代劇の設定に、[通り雨]というのがある。街路を足早(あしばや)に通りかかった誰ぞが、俄(にわ)かに降り出した雨に、思わず近くの軒(のき)へと駆け込む・・という設定だ。『チェッ! 振り出しやがったかっ! …』『おお、降り出しおったか…』とかなんとかの台詞(せりふ)が入るベタなやつである。よくしたもので、その軒には少し前に駆け込んだ美形の女が雨宿(あまやど)りをしている・・ということになっている。そんな都合のいい話は現実には、ほとんどない。しかし劇中の二人はそれが縁でいい仲となり、あんなことや、こんなことをしたりして、まあそういうややこしいことになる・・としたもので、へへへ…大方(おおかた)はそうだろう…と、下世話(げせわ)な連中を愉快な気分にさせる訳である。
 二人の老人が場末(ばすえ)の古めかしい映画館で時代劇映画を観ている。
「…そろそろ降り出しますなっ!」
「ははは…でしょうなっ!」
 二人はヒソヒソと愉快な気分で映画の先読みをして語り合う。周囲の観客は逆で、映画に集中出来ず、不愉快、極(きわ)まりない。だが、老人の語らいのせいか、静かにっ! とも言えず、じれったい気分で映画を観続ける。
 映画が終わったとき、二人は普通の声で、また語り合い出した。
「ははは…何度、観ても、あの場面で通り雨が降りますなっ!」
「ですなっ! ははは…」
 二人の老人は愉快な気分で座席を立ち、出口へと向かった。周囲の観客は、観たなら、何度も観るなよっ! とも言えず、不愉快な気分で座席を立ち、出口へと向かった。
 通り雨は、気分を愉快、不愉快と二分(にぶん)させる雨なのである。^^

         
                   完

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