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2019年5月 9日 (木)

愉快なユーモア短編集-43- 自分

 妙なもので、世の中の有りようを自分中心に考えれば、違う点が腹立たしくなってきて愉快な気分が阻害(そがい)されることになる。逆に、行雲流水(こううんりゅうすい)のように世の流れに従って生きれば、割合と愉快な気分になれる。とはいえ、世の中の間違いは間違いであり、間違ってるぞ…と思えば、誰しも自分の信念は曲げたくないものだ。ところが世の中はそう甘くなく、従わせようとする。そうしないと働いて生活できないから困るのだ。腹立たしい得意先に頭の一つも下げねばならないのが、その一例である。
 とある社員食堂である。一人の平社員が食券を手にイライラしながら厨房(ちゅうぼう)前で待っていた。
「おばさん! まだ出来ないのっ!!」
「どうしたのよ? 今日はやけに急いでるじゃない!?  あんたにしては珍しいわねっ!」
「そんなこともないんだけどさぁ~」
「嘘(うそ)おっしゃいっ! 『出来るだけ遅(おそ)い方が長く休めるっ!』って昨日(きのう)、言ってたじゃないっ!」
「ああ、そうだった? まあとにかく、今日は急いでよっ!」
「はいはいっ! 10分前なら出来たのが並んでたんだけどねっ」
 厨房内の賄(まかな)い婦(ふ)のおばさんは、すでに食べている社員達を指差しながらそう言った。
「はいっ! 出来たわよ…」
 5分ばかりが経ち、おばさんがハンバーグ定食をトレイに乗せたときだった。平社員の所属する課長が早足で現れた。
「おおっ! タイミングがいいぞっ! はいっ、ハンバーグ定食の食券!」
 平社員は、思わず『それは僕のっ!』と言おうとしたが心にとどめ、グッ! と我慢した。自分の意思を殺したのである。実は平社員には恋愛しているOLと会える僅(わず)かな時間の約束があったのである。
「なんだ? 君はまだ出来ないのか?」
「ええ、まあ…」
 世の中は自分の都合で生きられず、攣(つ)れなく切ないのだ。^^

        
                   完

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