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2019年5月21日 (火)

愉快なユーモア短編集-55- 三々(さんさん)

 この話は、やや専門的になるので、読みたい人はお読みいただき、読みたくないっ! とお思いの方は、例によって適当にカラオケなどで寛(くつろ)いでいてもらっても、いっこう構わない。^^
 三々(さんさん)とは囲碁の世界で使われる言葉である。19×19路の盤面の中で、隅(すみ)の星[4の四]の位置に打たれた相手石に対し、[3の三]と内部侵入(しんにゅう)をして打ち込むことにより、隅の地(じ)を自分の領域[テリトリー]にしよう…と目論(もくろ)む打ち方だ。だが、これで愉快な気分で勝ちを確信出来るか? といえばそうでもなく、相手石にぶ厚い外壁を作られ、隅で細々と所帯を持つ[生きる]という哀れな場合もある。それでもまあ、生きてりゃいいさ…と言われればそれまでだが、辛(つら)く侘(わび)しいことに変わりはなく、一局を通せば負けになることもある訳だ。むろん三々には逆もあり、ケース・バイ・ケースといえるが…。^^実は、この三々に似通(にかよ)ったことが私達が生きる社会の中でも頻繁(ひんぱん)に起きているのだ。例(たと)えば美人やイケメンだからといって人間的によく出来た人とは限らないし、高価な物だからといって必ずしもいい物とは限らない・・といった事例である。むろん、どちらもいいに決まってはいるのだが…。生物界でも、芋虫の幼虫に寄生蜂が卵を産みつける、カッコウという鳥が、厚かましくも他の鳥の巣の卵を自分の産んだ卵と取りかえる・・といったようなことがある。
 多くの店が軒(のき)を並べたとある町の街路である。一人の背の高い老人が鯛焼きの屋台の前で腕組みをして思案に暮れている。そこへ、もう一人の小ぶりの老人が通りかかった。二人は碁会所仲間だった。
「どうされました、ご隠居?」
「いやね、どちらの鯛焼き屋がいいか・・で悩んでおるんですよ」
 小ぶりの老人は一瞬、どっちだっていいじゃないかっ! と思ったが、そうとも言えず愛想笑いした。
「ははは…さようでしたか。で、どう違うんです?」
「右の屋台は小さいが餡(あん)が詰まってるんですよっ。で、左の屋台は餡は少ないが大きいんです」
「なるほどっ!」
「あなたならどちらにします?」
「ははは…昨日、打ってました三々ですなっ!」
「そう、それっ!」
「大きいが中の餡が少ないっ!」
「小さいが中の餡が多いっ!」
 そこへもう一人、碁会所仲間で小太りの老人が現れた。
「ははは…聞かせてもらいましたぞ。私なら大小は関係なく味(あじ)ですなっ!」
 愉快なひと言に、背の高い老人も小ぶりの老人も言葉を失った。
 三々は味がいいか悪いか・・で、散々(さんざん)な目に合うこともあるのである。^^

                          完

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