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2019年5月 3日 (金)

愉快なユーモア短編集-37- おざなり

 物事を長い期間、繰り返してやっていると、ついつい、おざなりになってしまうものだ。おざなり・・とは難(むずか)しい言い回しだが、分かりやすく言えば、いい加減で、その場限りの間に合わせである。物事を繰り返しているうちに、それが馴(な)れを生じ、いつの間にか初めのやり様(よう)や風味、出来栄えが消えて損なわれる。それが、おざなりを生み出す訳だ。当然、いつもやっている人は、気づかない。ある種の慢心(まんしん)が生み出す失敗の原因なのかも知れない。━ 初心 忘れるべからず ━ の格言が指(さ)し示す通りである。
 生(い)け花の未生流宗家から名取りを許され有頂天になった、とある老人のお話である。
 なにせ、十数年も通った挙句(あげく)、ようやく頂戴(ちょうだい)できた名取りだけに、老人の心は充足感に満ち溢(あふ)れ、何をやっても愉快な日々が続いていた。そして月日は流れ、老人は近所で確固とした生け花名人としての地位を築いていた。そんなある日のことである。
「ひとつ、先生…次の老人会で生けてもらえませんでしょうかなっ?!」
「ああ、いいですよっ! …その日は確か・・空(あ)いてましたなっ!」
 老人は自慢げに手帳に記(しる)されたスケジュールを確認しながら言った。すでに有名な先生気取りである。老人は生ける花はその日、準備すればいいだろう…くらいのおざなりで、軽く考えた。ここに慢心が生まれたのである。
 老人会の当日、少しばかり早く会場となる公民館へ出向いた・・まではよかったのだ。ところが、届けるよう電話をしていた花が来ていない。老人は慌(あわ)てて花屋へ電話をかけた。
『ええ~~っ!! 今日でしたかっ?! おかしいなぁ~、先生、確か◎日と言われましたよっ?』
「◎日じゃないっ! ○日、今日ですよっ!」
『弱ったなぁ~、生憎(あいにく)、まだ入荷(にゅうか)してないですよっ! それに。残った花も、ほとんど出ちまって…どうしましょう?』
「どうしましょうも、こうしましょうもないよっ! とにかく、残ったのを、早くっ! もう、時間がないんだっ、時間がっ!!」
 花屋は残っている萎(しお)れかかった花を会場へ急いで届けた。老人は、その花で、かろうじて生け終えた。
「ほう!! …先生、作風が変わりましたかっ?」
「えっ? ははは…まあ、そのような…」
 なんとも貧相な花が会場を飾っていた。照明のスポットライトが返って生けられた花を惨(みじ)めにしていた。笑って暈(ぼか)した老人だったが、いつもの愉快な微笑(えみ)は完全に失せていた。老人はおなざりで確認を忘れた注文にを心で悔いていた。
 おざなりは失敗を誘い、愉快な気分を損なうから侮(あなど)れない・・というお話である。^^

       
                   完

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