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2019年11月

2019年11月30日 (土)

それでもユーモア短編集 (48)ごく僅(わず)か

 ほんの取るに足らない量や大きさだと、ごく僅(わず)かずつ増え[大きくなっ]たり減[小さくな]ったりしたとしても、大して変わったという実感には乏(とぼ)しいものだ。これは例えば、10分の1=10%という実感と10000分の1=0.01%という実感の差に似通(にかよ)っている。それでも、元の状態よりは変化している訳だ。このごく僅か・・という存在が、どうしてどうして、なかなか侮(あなど)れないのである。1000兆規模にまで膨(ふく)れ上がった国の公債発行残高ひとつを取って見ても、お分かりだろう。^^ まあ、そんな小難(こむずか)しい話は政治家諸氏にお任せするとしよう。^^
 ここは、とあるよき時代の田舎(いなか)の家庭である。皐月(さつき)の鯉の吹き流しが清風に誘われ、小気味よくはためいている。柱(はしら)の前へ立たせ、弟の身長を測(はか)る兄。粽(ちまき)を頬張りながら弟が言う。
「兄ちゃん、伸びたかっ?」
「こらっ! 動くなっ!」
「うん!」
「…去年よりはごく僅か、伸びたか…」
「ごく僅か・・ってことはないだろ」
 この瞬間、弟は爪先(つまさき)を少し上げ、ズルをした。
「? 測り間違えたか?」
「だろっ?」
「ああ、ごく僅かってことはないか。ははは…伸びた伸びたっ!」
 二人は笑い合った。笑った瞬間、弟は爪先を思わず下げてしまった。
「? あれっ、また低くなったぞっ?」
「もういいよ、兄ちゃん」
「だなっ!」
 こういう場合は、それでも! と正確さを求めて測らず、暈(ぼ)かすのがいい。^^

                           完

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2019年11月29日 (金)

それでもユーモア短編集 (47)やるっ!

 やるっ! と思わないと、あるいは思えないと、すべてのコトは前へ進まないし成し得ない。要は、やるかやらないか・・というその一点に尽(つ)きる訳だ。梃子摺(てこず)ることでも、やろう! と思えば、それでも出来るのだが、多くの人はやるっ! という気分までには至らず、断念したり諦(あきら)めてしまう。自分がやらないで誰がやるっ! という気力が大事なのだが、その見えない心のひと声がなかなか聞けない訳だ。CMで超有名なロック歌手の方のひと声なら聞けるのだが…。^^ 
 やるっ! と意気込むのはいいが、先の結果が見えない、やるっ! はダメだ。ただ単なる向こう見ずとなる。それでもやるっ! と徹底して思えるコトは、ダメなようでも何か意味がある内容に違いない。
 大相撲好きのとある老人が、楽しみにしていた千秋楽のチケットが手に入らず、テンションを下げて家へ戻(もど)ってきた。
「どうしたんです、父さん?」
 初老の息子が訝(いぶか)しげに訊(たず)ねた。
「いや、なんでもないっ!」
「そうですか? なら、いいんですが…」
「ああ…」
 否定した老人だったが、その内心は、よっしゃ! こうなったら、なにがなんでも手に入れてやるっ! だった。息子も息子で、その半時間ばかり前、超有名なロック歌手のチケットが売り切れで手に入らず、よっしゃ! こうなったら、なにがなんでも手に入れてやるっ! と燃えていたところだった。そこへ父親のご帰還(きかん)となった訳だが、そんな思いは億尾(おくび)にも出さず、父親に訊ねた・・と、話はまあ、こうなる。
 その後、二人はそれぞれ駆け回った挙句(あげく)、コトを成就した。チケットが入手出来たのだ。
 このように、それでもやるっ! と意気込めば、大よそのことは、めでたしめでたし・・となる訳である。^^

          
                  完

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2019年11月28日 (木)

それでもユーモア短編集 (46)空腹

 人は食べないと腹が減る。この空腹となる現象に十人十色(じゅうにんといろ)の違いはない。誰もが同じように空腹となる構造に人の身体(からだ)が出来ているからだ[ダジャレではない^^]。空腹なのに、それでも食べないでいるのは身体に余りよくない。夜に食べれば悪いとかよく言われるが、朝型の人のバイオリズムでの話で、取り分けて夜型の人に悪いということではない。それより、空腹のときに食べるのが一番、身体によく、食べないと悪いらしい。身体が生理的に食べることを要求する・・それが空腹という現象らしい。かといって満腹になるまで食べる・・というのもよくないらしい。━ 腹八分目 医者いらず ━ の格言めいた言葉どおりではある。^^
 一人のサラリーマンが昼の二時過ぎ、フラフラと社員食堂へ駆け込んだ。
「おばちゃんっ! 何でもいいから、すぐ食べられるものっ!!」
 見れば、空腹で今にも倒れそうだ。
「どうしたのよっ! 飯盛(いいもり)君」
「落城寸前なんですよっ!」
 そう言いながら、飯盛は崩れるようにテーブル椅子へ、へたり込んだ。
「落城寸前?」
「ええ、落城寸前の白虎隊っ!」
「なに言ってんのよっ! しっかりなさいっ!」
「ぅぅぅ…あと30分、仕事、切り上げるべきだった!」
「そんな大げさなっ! はい、お水!」
 食堂のおばちゃんは、水の入ったコップを飯盛が座る前のテーブルへ置いた。
「ああ、これでひとまず五稜郭(ごりょうかく)っ!」
「五稜郭?」
「はい、五稜郭。水だけではいずれダメでしょうが、ひとまずは…」
「なるほど…。チャーハン定食ならキャンセル分があるけど、それでいい?」
「いい、いいっ! もう、なんでもいいですっ!! それでも…まさか、桜田門外の変ってことは?」
「あるわきゃないでしょ!!」
「食中毒・・あるわきゃですよねっ! ははは…これで明治維新だっ!」
 食堂のおばちゃんは笑いながら黙って頷(うなず)いた。
 やや冷えてはいたが、それでも飯盛は、置かれたチャーハン定食を貪(むさぼ)るように食べ始めた。
 残り物であろうとなんだろうと、空腹になれば、それでも人は食べて生き続けるのである。^^

                         完

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2019年11月27日 (水)

それでもユーモア短編集 (45)気力

 人生を生き抜く上で気力は大事だ。気力が失せた状態が無気力だが、こうなればなにをする気にもならず総(すべ)てが前へ進まない。それどころか次第に鬱屈(うっくつ)した気分となり、やがては心身ともに病気へと悪化することになる。気力といってもいろいろあり、元の気力、すなわち元気が第一となる。気力があっても元気の気力でないと無気力と大した変わりはなく、返ってよくない。^^ お金を首に括りつけた猫・・猫に小判では役に立たない・・ということと同義である。^^
 老人会がとある公民館で開かれている。婦人会の主催で、70歳以上のお年寄りが招待され、大そう賑(にぎ)わっている。
「やあ! お久しぶりですなっ! お元気そうでなによりですっ!」
「はいっ! お蔭(かげ)さまで…」
「私なんか、全然、ダメですわ。お見かけしたところ随分、溌剌(ハツラツ)とされてますな。何か秘訣(ひけつ)でも?」
「ははは…よくぞ訊(き)いて下さいましたっ! 言いたくてムズムズしとったんですわっ、ははは…」
「と、言われますと?」
「気力ですよ、気力! 何事にも気力で望む! これが元気の源(みなもと)ですなっ!」
「ほう! 気力ですか?」
「はい、気力です。何事にも、それでも! と、前向きの心で望んどりますっ!」
「なるほどっ!」
「ははは…あなたも、気力でっ!」
「有難うございます。そうさせていただきますっ!」
 言われた老人は次の日から何事にも気力で望むようになり、元気になっていった。
 人生は、それでも! と、気力で望むことが大事なようだ。^^

                           完

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2019年11月26日 (火)

それでもユーモア短編集 (44)略語会話

 口で言うだけなら誰にだって出来る。要は、━ 言うは易(やす)し 行(おこな)うは難(がた)し ━ となるが、まあ、そこまで言えば味も素っ気もなくなるからやめよう。^^
 誰しも、ああしたい! こうしたい! ああなればいいのにっ! こうなればいいのにっ! と思うものだ。ところがそう上手(うま)くいかないのが世間で、望みを潰(つぶ)そうと忍び寄る。それでも! と思うなら、口にしないことだ。口にすれば、誰もが知るところとなり、コトはおおよそ潰(つい)える・・としたものだ。こういう場合は、略語会話がいい!^^
 とある会社の退社時である。二人のサラリーマンがデスクの書類を片づけながら目配(めくば)せ した。
「…SGでなっ!」
「ああ! AF30M!」
 皆さんには、この意味がお分かりだろうか?^^ お分かりになる訳がなかろうから解説しよう。
『…サマーガーデンでなっ!』
『ああ! 30分後!』
 となる。もう少し詳しく言えば、
『…◎◎ビルの屋上のサマーガーデンで一杯っ!』
『ああ! 30分後に行くっ!』
 といった内容になる。それを傍(そば)で聞いていた課長は、二人の略語会話の意味が分からず気になった。まあ、いいか…と会社を出たのはいいが、それでも気になる課長は、あとを尾行した。そして二人がビアガーデンで飲み出したのを見届け、溜め息を一つ吐いた。
「なるほどっ! SGな…。それで俺はEXか…」
 これも通訳せねばならないだろう。^^
『なるほどっ! サマーガーデンな…。それで俺はイクスセプト[除外]か…』となる。
 このように、それでも口にしたいときは、略語会話で分からないよう暈(ぼ)かすのがいいようだ。^^

         
                  完

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2019年11月25日 (月)

それでもユーモア短編集 (43)気になる

 表立(おもてだ)っては、「ははは…いや、別にどうでもいいんだよっ!」とかなんとか言ってはみたものの、それでも気になるのが人の本性(ほんしょう)だ。一度、気になると、どうしても知ったり解明したくなる・・というのが人の生まれ持った性質なのかも知れない。ただ、この場合のそれでも! と気になる度合は個人差があり、そう大して気にならず、いつの間にか忘れてしまう人と、他のことを後(あと)回しにしても知りたくなる人のように、様々な違いがある。
 二人の男が通勤電車の中で話し合っている。いつも同じ時間の電車に乗る顔見知りのサラリーマンだ。
「えっ? どのアレです?」
「嫌だなぁ~、金曜の朝、お願いしていたアレですよっ!」
「ああ、アレ。アレはまだ…」
「まだなんですかっ!? あれだけアレを! って言ったじゃないですかっ!」
「ああ、確かに聞きました。聞きましたけどね。こちらにも急用とか、いろいろ出来るじゃないですかっ!」
「そらまあ、そうですけど…。あれだけアレをお願いしておいたんですからっ!」
「分かりました。明日の朝には…」
 迫(せま)られた男は、とりあえず逃げの返事をした。返事をしたのはいいが、この男、全然、気になるタイプではなかったから、アレがなんだったかを忘れてしまっていた。迫られた男の本音(ほんね)は、『弱ったな…アレが分からん。といって、今更(いまさら)、訊(き)く訳にもいかんしな…』というものだった。
「頼みましたよっ!」
「はいっ! アレは重要ですからねっ!」
「いや、私は関係ないんですが、妻の方が…」
 相手の返答に、迫られた男は、『妻の方? …家庭のことか?』と推測した。
「アレは奥さんがお気になされる・・ってことでしょうか?」
「そりゃそうですよっ、アレですからっ!」
「はあ、確かにアレはね…」
 拙(まず)いことに、迫られた男はアレが何のことか、皆目(かいもく)、見当もつかなかった。
「明日は期待しとります」
「はあ…}
 迫られた気にならない男は、今夜は気になって眠れそうにないな…と思った。
 気にならない者でも、社会生活の中では、それでも気になることが生じるのである。^^
 ここで皆さんにだけコトの真相をお話しよう。アレとは、連合婦人会の総会が開催される日だった。連合婦人会の会長である立場上、忘れまして…と訊く訳にもいかず、夫を通じて密(ひそ)かに訊ねたのだった。訊ねられた男の妻は連合婦人会の書記だった・・と、まあ真相はこうなる。^^

        
                  完

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2019年11月24日 (日)

それでもユーモア短編集 (42)兎(と)に角(かく)

 ダメと分かっていて、それでもやることを兎(と)に角(かく)やる・・と人は言う。兎も角やる・・とも言われるが、まあ、どちらでもいい話だ。^^
 どこにでもいる二人の老人が春の陽気に誘われ、語り合わなくてもいいのに訳の分からない話を語り合っている。^^
「いや、それは兎に角やっておかれた方が無難(ぶなん)でしょう」
「そうですかな?」
「ええ、そう思いますが…。いえ、思えますなっ!」
「さよですか? なら、やっておきましょう。取り分け変わらないとは思うんですがな…」
「いや、それは変わるでしょうなっ! 食べたあとで出すか、食べる前に出すか・・の違いですが、やっておけば安心して食せます。食べている途中で催(もよお)す・・ということも考えられますからなっ! この場合は兎に角やっておくべきでしょう!」
「出しますかっ!」
「ええ、出しておいてください。私は出して来ましたから…」
「では、出すことにします」
 一人の老人は、そそくさと近くのトイレへ入っていった。
 その後、二人は観光バスに揺られながら、買っておいたコンビニ弁当をパクついた。お茶を飲み終え
、二人は人心地ついた。
「どうです? 催さないでしょ?」
「はあ、さようで…。兎に角よかったですなっ!」
 それでも兎に角やっておけば、安心して寛(くつろ)げるのである。^^

         
                  完

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2019年11月23日 (土)

それでもユーモア短編集 (41)花見(はなみ)

 春の陽気に誘われ、植物は一斉(いっせい)に様々な花を咲かせる。中でも桜は花のトップに君臨(くんりん)し、どういう訳か人々は桜で花見(はなみ)をする。別に桃だろうが水仙だろうが他の花でいい訳だが、それでも人々は桜の樹々の下に陣取り、飲めや歌えやの花見で盛り上がる。梅見もあるが、どうも梅では今一つ飲めや歌えやにはなりにくい。^^ 桜がそれだけ人々に愛されるのには、どうも日本人の脳内に植えつけられた潜在意識がそうさせている向きがある。それを物語るのが桜前線とか何分咲きなどという言葉だ。日本人は桜を花見することで春の到来(とうらい)を実感している節(ふし)がなくもない。
 満開の桜の樹の下で二人(ふたり)のご隠居が恒例(こうれい)の花見で盛り上がっている。毎年、満開の頃になるとスゥ~っと現れ、同じ樹の下で盛り上がっては、またスゥ~っと消え去る連中だ。
「今年も咲きましたな…」
「はいっ! 忘れずに咲くんですから大したものです。私なんか、ははは…昨日(きのう)のことも忘れとります」
「ははは…いや、それは私もですなっ!」
 二人は自虐(じぎゃく)ネタで大いに盛り上がった。
 月日は巡り、二人の姿が一人(ひとり)になった。多くは語るまい。まあ、…そういうことである。それでも一人は花見にスゥ~っと現れ、ブツブツといない相手と話して盛り上がり、スゥ~っと消え去った。
 そして、また月日は巡り、二人の姿は消え去った。それでも、二人はまたスゥ~っと現れた。
『今年も咲きましたな…』
『はいっ! 忘れずに咲くんですから大したものです。私なんか、ははは…昨日(きのう)のことも忘れとります』
『ははは…いや、それは私もですなっ!』
 あの世から花見に現れた二人は、恒例の自虐(じぎゃく)ネタで大いに盛り上がった。
 花見は、それでも! と人を引きつける魅力があるようだ。^^

                            完

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2019年11月22日 (金)

それでもユーモア短編集 (40)常識(じょうしき)

 常識(じょうしき)は常識、上敷(うわし)き、畳(たたみ)・・と言われるほど、社会ルールのような強制力を持っている。^^ そうしないと、社会から変な目で見られないか…という被害妄想に陥(おちい)るのである。だが、よくよく考えれば、常識を打ち破った発想から新しい発明や発見が派生することも、また事実なのである。それでも! と常識を守ることと常識を打ち破ることは、実は相反するようで同じなのだ。いい常識を守り、悪い常識を打破することは、進歩と同じ効果があるということに他ならない。
 とあるカレー専門店である。久しぶりにカレーを食べようと、猪口(いのぐち)は駐車場に車を止め、店へ入った。
「何にされますか?」
「… カレーパスタ、1辛(から)、量は並。ああ、それに野菜サラダねっ!」
「はいっ!」
 水コップをテーブルへ置いたウエィトレスは、注文を機器へ入力するとスゥ~っと去った。そしてしぱらくして、野菜サラダ、ドレッシング、それにどういう訳か箸(はし)+スプーンの食器を置いて去ろうとした。瞬間、猪口は、おやっ? …と思った。洋食の常識はフツゥ~、ナイフ、フォーク、スプーンだろっ!? と思えたからだ。
「あの…フォークを」
 猪口は箸をウエィトレスへ手渡すと、小声で小さく言った。『この店は常識がないのかっ!』と少し怒れてはいたが、そうとは言わず思うに留(とど)めたのである。
 しばらくして、ウエィトレスはカレーパスタを持って現れたが、猪口が頼んだフォークは持参せず忘れていた。ウエィトレスが去ったあと、そのことに気づいた猪口は立ち上がると思わず店員がいる厨房(ちゅうぼう)へと近づき、「あの! フォークを下さいっ!」と言っていた。すると、「席に座ってお待ち下さいっ!」と、上から目線の言葉が返ってきた。『忘れたくせにっ!』とふたたび猪口は怒れたが、それでもグッ! と耐えて我慢をした。
『ぅぅぅ…この国の常識も、ここまできたかっ!』と偉(えら)そうに思いながら猪口はカレーパスタを口にした。常識どおり新メニューのカレーパスタの味は美味(おい)しかったから、食べ終えたとき、猪口の怒りはいつの間にか消えていた。すると妙なもので、『注文したとき、スプーンとフォークにして下さい、と言えばよかったか…』と、ふと思えた。さらに、『カレーパスタに箸? フォークだろぉ~!?』とも思えた。
 美味しいもので腹が満たされたとき、それでも! という常識に対するいいアイデアや解決策が浮かぶようだ。^^

                          完

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2019年11月21日 (木)

それでもユーモア短編集 (39)ペース

 人には人のペースというものがある。食事一つにしても、あっ! という間に食べてしまう早いペースの大食漢(たいしょくかん)から、数十分かかってようやく食べ終えるペースが遅い人まで様々(さまざま)だ。まあ、どちらが良くどちらが悪い・・という質(しつ)の問題ではないことだけは確かだ。ただ、ペースが遅いと、早い人に比べて腕が落ちたり程度が低いと見られがちになる。強(あなが)ちそうでもないことは、ウサギとカメの童話が物語っている。
 わんこ蕎麦(そば)の食べ比べ競争がとある地方のとある会場で行われている。すでに順位はほぼ決定し、残るは決勝のみである。二人の選手が目を閉ざし、合図の笛が吹かれるのを静かに待っている。二人とも今まで食べた分が体内にあるから、余り食べたくない気分で笛が吹かれるのを待っている。
 実況アナウンサーの声が感情の昂(たかぶ)りからか、幾らか震えている。
「さあ、どうなるでしょう!!?」
「えっ? いや、まあ、なるようになるんでしょう!!」
 解説者が落ちつきはらった声で返す。しばらくして笛が吹かれ、競技が始まった。飲み込むようにペースが早い男は、瞬く間に数杯を片づけた。片や、ペースが遅い男は、もはや限界が近いのか、ゆっくりと噛(か)むように食べ、ようやく二杯目である。
「もう決まりましたねっ!」
「いや、分かりませんよっ!」
 そしてしばらくして笛が吹かれ、競技が終了した。それでも食べ続けた早いペースの男は八杯を、片や遅いペースの男は、かろうじて四杯だった。
「おめでとうございますっ!! 優勝者は八杯を食べ」
 アナウンサーがマイクでそこまで絶叫したときだった。
「オ、オェ~~~!!」
 八杯を食べた男が俄(にわ)かに奇声を発し、口から戻(もど)した蕎麦を吐(は)き、その場で卒倒した。
「… でしょ?」
 アナウンサーは黙って頷いた。
 このように、それでも! とペースを上げれば、逆の結果を招(まね)くこともある。^^

                            完

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2019年11月20日 (水)

それでもユーモア短編集 (38)ど~~でもいいこと

 人とは困ったもので、ど~~でもいいことでも一度(ひとたぴ)気になり固執(こしつ)すると、何がなんでもやってしまわなければ気が済まない生き物なのである。しかし、そういつも上手(うま)くやる機会があるとは限らない。それでも気になるのが人だから、なんとかやろうとする。重要なことならまだしも、ど~~でもいいことでも、である。^^
 とある一般家庭の日曜である。どういう訳か、朝から兄の努(つとむ)が物探しをしている。
「困ったやつだっ! あんなもの、ど~~でもいいじゃないかっ!」
 昼から草野球の練習があるから、これから予習を済ませておこう…と考えていた矢先、努は妹の深久(みく)に、とあるモノを返して欲しいといわれたのである。それは去年の秋、深久が作った一枚の押し花だった。上手(うま)く出来たからか、自慢げに「お兄ちゃんにもあげるっ!」と、くれた押し花だったが、お友達が欲しいと言ってるから返して欲しいと言われたのだ。最初は、「ああ、いいよっ!」と安請け合いをした努だったが、よくよく考えてみると、どの本にその押し花を挟(はさ)んだか? が分からない。で、朝から物探し・・をする破目(はめ)になった訳である。
「ないなぁ~~!」
「んっ、もうっ!! なんとか探してねっ!」
「ど~~でもいいじゃないか、押し花なんてっ!」
「そうはいかないわ。お友達と約束したんだからっ!」
「どこかへいった・・って言えばいいだろっ!」
「ダメよっ! 私にもプライドがあるからっ!」
 深久は一歩も引かない。
「兄ちゃんなっ! 昼から練習があるからさぁ~。昼まで予習、やっときたいんだ…」
 努は俄(にわ)かに弱音(よわね)を吐いて引いた。こういう場合、引いた側は大よそ負ける・・としたものだ。案に相違せず、努は深久に負け、午後も探させられる破目となった。当然、草野球の練習を休ませてもらう旨(むね)の電話をしてから、である。
 このようにど~~でもいいことでも、それでも…と意気込めば、手間取る場合が多々、あるのだ。^^

         
                  完

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2019年11月19日 (火)

それでもユーモア短編集 (37)馬鹿

 素晴らしい自然が少しずつだが消えつつある。樹木が切り倒され益々、人々の心は和(なご)むどころか荒(すさ)んでいく。その益々(ますます)、荒んだ心が益々益々、人の心を荒廃させる。それは恰(あたか)も、負[下降]のスパイラル[螺旋(らせん)状の渦巻曲線]が増幅しているかのようだ。それでも・・と、なぜ人はそんな愚行(ぐこう)を重ねるのか? そこには、鬱屈(うっくつ)した逃げ場のない憂(う)さ晴らしの心が観てとれなくもない。そんな馬鹿な人はバッサリと自分の手足を切られないと、切られた痛みが分からないだろう。そういう馬と鹿が同居したような馬鹿な人は、植木にでもして愛(め)でるにかぎる。^^ 春の季節なら当然、花[俳句では桜らしい^^]だろう! ^^
 満開の桜を愛(め)でながら、樹々の下で二人の老人が花見をしている。馳走(ちそう)が入った折り詰めと酒。雪洞(ぼんぼり)の灯(あか)りが宵闇の桜を照らし、風情(ふぜい)を誘う。二人はすでに出来上がり、赤ら顔でホロ酔い状態だ。
「いい陽気になりましたなっ!」
「さよですなっ!」
「こういう場では馬鹿になるのが一番ですなっ!」
「そうそう! 馬鹿が一番、馬鹿がっ!! ははは…」
「ははは…」
  誰もいなくなった深夜まで、それでも二人は花見を続けた。本物の馬鹿になったのである。^^
 馬鹿にもいろいろあって、こんないい馬鹿は増えて欲しいものだ。^^

         
                  完

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2019年11月18日 (月)

それでもユーモア短編集 (36)栄枯盛衰(えいこせいすい)

 小難しい話をする訳ではないが、栄枯盛衰(えいこせいすい)という四字熟語はお聞きのことと思う。世の無常を示した言葉で、大層、羽振りがよく、栄えている枝葉だからといって、将来は枯れてしまうことにもなる・・という不安定な変化を憂えた言葉だ。無論、このことは人や家族、企業など、あらゆる分野に共通して言え、当然ながらその逆も有る訳である。
 とある田園地帯にある細道を二人の知り合いの若者が歩いている。
「この辺(あた)りの景色も変わったなぁ~~!」
「ああ、米だけ作る一毛作だから、冬場は休耕地さっ!」
「昭和30年代、牛が鋤(すき)を引っ張って田を耕(たがや)していたのを今、思い出したよっ!」
「ああ、二毛作の時代だったなぁ~! そのあと、麦踏みだった…」
「麦踏みかっ! 懐かしい言葉だが…もはや、死語だっ!」
「ああ、必死に作物(さくもつ)を増産する時代だったな…」
「菜種、レンゲ畑、麦畑が春先には広がってたなっ!」
「それでも、物資や食料不足の時代だった…」
「国会議事堂の前がサツマイモ畑だったそうだぜっ!」
「ああ、その写真は見たことがある。それが今や、TPPで下痢してるぜっ!」
「ははは…飽食(ほうしょく)で下痢か。下痢はいかん、下痢はっ!!」
「栄枯盛衰だなっ!」
「ああ、またあんな時代になるか…」
「ははは…無いとは言えんっ!」
 すでに二十分が経過していたが、それでも栄枯盛衰の昔話は尽きなかった、いつの間にか二人は、同じ道を二周していた。^^

         
                  完

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2019年11月17日 (日)

それでもユーモア短編集 (35)工夫(くふう)

 何かをしようとしたとき、その場に必要な道具や物がない場合、ホモ・サピエンスである高等な頭脳を持つ私達人類が、そこにある物でなんとかしよう…と考えるのが工夫(くふう)という所作(しょさ)である。いつも必要なものがその場にある・・などという上手(うま)い話はこの世にはなく、そうは問屋が卸(おろ)さないから、直売場まで買いに出向く・・などという必要はないが、^^ それでも、困ることにはなる訳だ。
 とある草原である。春の陽気に誘われ、二人の学生が弁当を食べたあと、草を枕に寛(くつろ)いでいる。ところが、一人の学生が俄かに腹具合を悪くした。
「おいっ! 大丈夫かっ!!」
「ははは…ちっとも大丈夫じゃないっ!」
「それにしては余裕だなっ!」
「ははは…コレがあるっ!」
 腹具合の悪い学生は、バッグから折り畳(たた)みショベルを取り出した。
「キャンプ用具かっ!」
 怪訝(けげん)な表情でもう一人の学生が訊(たず)ねた。
「ああ、これで工夫するさ。それじゃなっ!!
 腹具合が悪い学生はショベルを手に草叢(くさむら)へと消えた。
 賢明(けんめい)な読者諸氏なら、もうお分かりだろう。^^ ・・の、あと処理である。持ってきた物は持ち帰るのがエチケットだが、そう出来ない場合は、なんらかの工夫をしなければならない。^^

          
                  完

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2019年11月16日 (土)

それでもユーモア短編集 (34)判断

 一人ならまだしも、多くの人に影響を与える判断は間違えることが出来ない。大よそ、判断は頭脳で感じる閃(ひらめ)きによるものだが、一つ間違えばド偉(えら)い打撃を受けることになる。
 二人の老人が語らっている。
「昨日(きのう)のワーテルローはなかなか見ごたえがありましたなっ!」
「ああ、BSテレビで放映のねっ! ナポレオンのフランス軍がイギリス軍に敗れた・・ってやつですな。アレ、私も観ましたっ!」
「指揮官の判断が全軍の勝敗を左右するんですなっ!」
「ええ。敗軍の将、兵を語らず・・ってやつです」
「まあ、あの戦いではナポレオンが一時、離れた隙(すき)に騎馬の将軍が勝手な判断で突撃して敗れた・・という描かれ方でしたが…」
「そうそう、そうでした。それにしても、もの凄(すご)いエキストラの数でしたなっ!」
「ええ。大作として制作されたんですからなっ! 制作費は高くついたでしょうなっ!」
「ははは…そこら辺(へん)は分かりませんが…。それでも儲(もう)かったんでしょうが…」
「興行収入が制作費を上回るか・・ですか? そこら辺は、制作責任者の判断ですからなっ!」
「ははは…そうですなっ!」
 成否(せいひ)の判断は、あらゆる分野に及ぶ訳だ。^^

         
                  完

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2019年11月15日 (金)

それでもユーモア短編集 (33)押(お)さない

 春ともなれば、動物達は繁殖(はんしょく)行動を活発化させる。特に♂[雄性]は子孫を残そう! とムラムラして、^^ その行動が激しくなる。♀[雌性]に対し、しきり、やたらとモーションをかけて押(お)す訳だ。^^ 押しても相手にその気がなければ空振り三振で、ションボリとダッガウトへ撤収せざるを得ない。それでも! と押せば、益々(ますます)嫌がられて、分(ぶ)が悪くなる。━ 押してもダメなら引いてみな ━ とは格言めいてよく言われるが、確かに押さない方が得策(とくさく)なのかも知れない。『あらっ? どうしたのかしらっ?』と相手の方が出てくる可能性も生まれるからだ。^^
 春休みのとある有名中学校である。T大への合格率が高いK高への受験対策としての補習授業が春休み抜きで行われている。その光景を校庭から眺(なが)める二人の落ちこぼれ気味(ぎみ)の生徒が二人、何やら話をしている。
「ヤツら、スケジュールが目一杯に詰まってるらしいぞっ!」
「ああ、そうらしいな。俺は落ちてもいいから、のんびりとやるよ。押されるのは嫌いだからなっ!」
「ああ、俺もだっ! それよか、そこのコンビニの特性弁当が安売りらしいぞっ!」
「ほう! よしっ! 行くかっ!」
「お茶は熱いほうがいいな…」
「販売機のホットでいいだろ?」
「そうだなっ!」
 話はスムーズに纏(まと)まり、二人は校庭のベンチから立った。
 月日は巡り、翌年の春である。二人はどういう訳かK高へ合格していた。片(かた)や、それでも! とギンギンに押した補修組は半数以上が不合格となった。まあ、フツゥ~~は押した方がいいのだろうが、押さない方がいい場合もある・・というお粗末なお話である。^^

         
                  完

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2019年11月14日 (木)

それでもユーモア短編集 (32)見えないモノ

 オカルト、怪談の類(たぐ)いではないが、見えないモノは怖(こわ)い。もちろん、ビリビリッ! とくる電気や身体の健康を脅(おびや)かす放射能なども含まれる。だが、それでも人々はそうしたモノに近づこうとする。ひょっとすると、人はサド的ではなくマゾ的な動物なのかも知れない。^^
 とある地方の池である。朝から飽(あ)きもせず、一人の釣り人(びと)が糸を垂(た)れている。水面(みなも)からは当然、釣ろうとする獲物の魚は見えない。その見えないモノを釣ろうと、釣り人はすでに二時間ばかり経(た)つというのに微動(びどう)だにしない。その釣り人に近くの道を通りがかった男が気づいて声をかけた。お地蔵さまのように動かない釣り人を不審(ふしん)に思ったのだ。
「あの…どうかされましたか?」
 だが、釣り人からはなんの返す言葉もない。
「…もしっ!」
 男は念を押すようにもう一度、声をかけた。聞こえなかったか…と思ったのである。だがそれでも、釣り人からはなんの返答もない。男は瞬間、こりゃ!なにかあるぞっ!! と思えたものだから、釣り人に近づいた。すると、釣り人は目を閉ざしたまま、釣り竿(ざお)を構えたまま眠っていた。いや、男にはそう見えたのである。ウトウト眠ってしまったとすれば、池の中へドッボン!! という万が一も有り得る。
「あの、もしっ!!」
「…」
 だが、やはり釣り人からはなんの言葉も出なかった。男は、こりゃ、大変だっ!! ポックリと死んだんじゃ!? と、益々(ますます)、気になり、ついに釣り人の肩を揺さぶった。
「ったくっ!! 小煩(こうるさ)い人じゃなっ! 騒がれては見えないモノが見えないではござらぬかっ!」
 釣り人は静かに両の瞼(まぶた)を開けると、厳(おごそ)かな声でそう告げた。
「し、失礼しましたっ! 動かれなないもので、つい…」
「それがしは、この近くで庵(いおり)を結びおる全安(ぜんあん)と申す僧でござる」
「あっ! これはこれは気づかぬことで…失礼をいたしました」
 そのときである。釣り人の糸がサッ!! と動いたかと思うと、水面から一匹の魚が勢いよく浮かび出た。
「ははは…見えないモノが見えましたぞっ!!」
 釣り人は、釣り糸の先の魚を確認すると、「南無阿弥陀仏!」と小声で呟(つぶや)き、魚を池へとリリース[解放]した。
 男はその釣り人に後光を見たように、思わず合掌(がっしょう)した。
 見えないモノは怖いが、有り難い見えないモノもある訳だ。^^

       
                  完

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2019年11月13日 (水)

それでもユーモア短編集 (31)稼(かせ)ぐ

 安定して生きるためには衣類や食べ物、それに住居といった所謂(いわゆる)衣食住が整(ととの)う必要がある。そのためには稼(かせ)ぐことが必要となる。稼ぐことで衣食住が実現するお金が手に入るからだ。その稼ぎが多くなれば当然、お金の入りも増えることになる。それでもより以上の生活をしたいから、人は必死に世の中で稼ぐ。もちろん、色欲、食欲、自己顕示欲などの個人的な欲望を叶(かな)えるいろいろな支出先がある・・ということもある。^^
 とある一人身の中年男性が、懸命に働いている。その姿を遠目に見ながら、二人の男が語り合っている。
「あんなに稼いでどうするんですかねぇ~」
「そうそう! 死んであの世へお金なんて持ってけないのにねぇ~」
「ですよね。大して使う人じゃないから…。私が変わりに使って上げてもいいんですがねっ。ははは…」
「はははは…そりゃ、いいっ!」
「この前、冗談半分にそう言いましたらね。あの人、なんと言ったと思います?」
「なんて言われました?」
「稼ぐのが私の趣味ですから…ですよ。なんでも、一万円札を数えるとき、無上の喜びが沸(わ)くそうです」
「ははは…変わったお人ですなぁ~」
「将来の夢は札束の上で眠ることだそうです」
「ほおっ! 札束の上でねぇ~! そりゃ、稼がないとっ!」
 二人は小声で笑い転げた。そんな二人を知ってか知らずか、男は必死に稼ぎ続けた。
 稼ぐ必要がないのに、それでも趣味で稼ぐ人が、この世にはいる。
 ^^

          
                 完

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2019年11月12日 (火)

それでもユーモア短編集 (30)補強

 補強をしておけば安心できる。これは、あらゆることに共通して言えることである。物や心構(こころがま)えetc.様々な分野に及ぶが、それでも補強するのか? と周囲の者に思われようと、意固地(いこじ)に補強しておくことに越したことはない。そうしておけは゛、気分にゆとりめいたものが生じ、心が落ち着く訳だ。^^
 ここは、とある町役場のとある課である。
「揉川(もみかわ)君、決算は順調に進んでるのかね?」
「ええ、まあ。それなりに…」
「それなり、ってことはないだろ。議会で攻(せ)められないよう、しっかり補強しておかないとっ!」
「補強って言われましても…」
「いらぬ質問をするお方もおられるからねぇ。去年なんか『あの予算はどこへ消えたんだっ!』って、こうだよ」
「はあ、私が異動で来た前ですね?」
「そう。前任の肩凝(かたこり)君、分からないもんだから四苦八苦(しくはっく)して、間違った答弁書を私に渡してさ。『訊(たず)ねてるのはその科目じゃないっ!』って、こうさ」
「課長が答弁されていれば、そんなことにはならないでしょうしねぇ~」
「ああ。俄(にわ)かに指摘されれば、間違うことだってあるよ」
「ですね…」
「だから、そうならないために前もって補強しておかないとっ!」
「補強ってのは、質問対策ですねっ!?」
「そう、答弁書の補強! あんな場合は、こんな場合は、そんな場合は・・とねっ!」
「分かりました! 事(こと)細(こま)かに補強しておきますっ!」
「頼んだよっ!」
「はいっ!」
 後日、議会が開催され、スンナリと前年度の決算は認定された。補強の成果が出た訳である。
 補強した場合でも、こうスンナリとはいかない場合もあるが、一応、安心はできる。^^

       
                  完

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2019年11月11日 (月)

それでもユーモア短編集 (29)気になる

 総(すべ)てを終え、人心地(ひとごこち)ついたあと、さて! 眠るとするか…と身体を横たえた瞬間、ふと、思い出すことがある。そうなるともう眠気(ねむけ)もどこへやら、そのことが気になり始める。『いやいや、まあ、明日でいい…』と心に命じてはみたものの、心は『いやいやいや、それは拙(まず)いんじゃないかっ!』と切り返してくる。それでも、『いやいやいやいや、俺は眠るんだっ!』と抗(あらが)ってみても、心も負けてはいないから『いやいやいやいやいや、それは実に拙いっ!!』と、こう来る。来られれば眠れないから、その対応を考え続けることになり、眠れない。そうなると、遅くまで眠れないまま次の朝を迎え、気分悪く出勤する・・と続く訳だ。^^
 とある町工場である。どうしても納得(なっとく)した板金(ばんきん)が出来ず、年老いた熟練工が頭を抱えている。
「どうしたんっす? 親っさん!!」
 若い工員が覗(のぞ)き込むように熟練工を窺(うかが)った。
「いやな…どうもコレが出来んっ!」
「ああ、それですか…。難しそうなヤツですねっ!」
「ははは…俺でさえ難しいんだっ! そりゃ、お前にゃ相当、難しいだろうっ!」
「もう昼時(ひるどき)ですが、それでもやられるんですか?」
「ああ、気になるから、もう少しやってみるつもりだっ!」
「ちょっと、変わってもらえませんかね?」
「ああ、いいが…。お前にゃ無理だろう、ははは…」
 熟練工と変わった若い工員は、いとも簡単にコレを仕上げてしまった。
「親っさん、どうでしょう?」
「…腹が減ってきた! 先にいくぞっ!!」
 罰(ばつ)悪く、そそくさと熟練工は食堂へと去った。
 本人には出来ないで気になる内容も、他人は必ずしも気にならないから、スンナリと出来るのである。^^

          
                  完

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2019年11月10日 (日)

それでもユーモア短編集 (28)順序

 物事は、これをして…で、そのあと、それをしてと普通は頭で考える。行動する順序である。ところが、スンナリといかない場合も当然、出てくる。そのとき、それでも! とその行動を継続しようとすれば、二進(ニッチ)も三進(サッチ)もいかなくなり、行動は停止してしまう。例えば大型連休でAという行楽地へ車で向かったとしよう。
「こらっ! あとで食べなさいっ!」
「ワァ~~!! お兄ちゃんが怒ったぁ~~!!」
「パパ! この先、5Kmで渋滞らしいよっ!」
 夫は妻と子供に迫(せま)られたが、ゆとりをもって返した。そんな態度が取れた背景には、順序立てられた用意周到(よういしゅうとう)な準備があった。その順序立てられた準備とは、こうである。
 [1]A地点で渋滞が発生した場合、その情報は5Km前で分かるから、1Km先のBサービスエリアで高速道から下(お)り、県道の迂回路(うかいろ)Cを走る。
 [2]迂回路Cが混雑していた場合は、さらに迂回して市道Dを走り、県道Eへと出る。
 [3]そのまま走れば目的のAへ到着するが、万が一、何らかの事情で時間がかなり遅れた場合は、県道Eの途中にある道の駅Fの足湯で疲れを取り、その後、食事をして車中泊する。
 [4]時間的に道の駅が閉店していた場合の準備として、非常食はある程度、買い込んでおき、毛布などの保温用衣類とともに事前に車へ積み込んでおく。
 [5]道中の衛生対策として、緊急の連絡先{Aまでに散在するG、H、Iの各病院}の確保、応急の医薬品や糞尿の一時処理に必要な備品、消耗品なども準備しておく。
 といった内容である。^^
 まあ、それでも! と、こんなに順序立てて準備しておく必要はないのだろうが、それでも! と先々を考えておくことが安全だとは言える。^^

         
                  完

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2019年11月 9日 (土)

それでもユーモア短編集 (27)一回転

 日はどんどん巡り、やがて一年が経過して前の年と同じ日となり、一回転する。一年前とどこがどう変わっどうのか? と考えさせられるほど、自分自身にそう目立った変化は起きない。いや、少しは起きているのだが、それでも気づかないのは有り難いという他はない。気づく場合は怪我か体調不良、病気の類(たぐ)いだからだ。だが、自分自身を取り巻く環境はいろいろと変化している。変化はしているが、時の流れは変化することもなく、また一回転して翌年の同じ日となる・・という回転寿司のような塩梅(あんばい)だ。^^
「まあ、とにかく頑張りますっ!」
「ああ、頑張ってくださいっ!」
 今年も同じように予備校から送り出されたのは、13浪している向学(こうがく)だった。1浪や2浪なら分かるが、13浪ともなれば、学校も敬語で試験に送り出すしかなかった。
 そして、また…一回転して翌年となった。もうお分かりだろう。向学は14浪となったのである。
 それでも! と一回転する場合は、惰性に陥(おちい)らない刺激が必要となる。^^

          
                  完

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2019年11月 8日 (金)

それでもユーモア短編集 (26)年中行事

 別にやらなくてもいいのだが、それでもいつの間にか繰り返しているのが年中行事だ。春の祭礼の時期には作らなくてもいいのにお寿司を作り、夏ともなれば、年中行事のようにスイカを食べる。別にスイカでなくてもいいのだが、どういう訳かスイカを食べると夏が実感できるのである。^^ まあ、JAPANESE[日本人]だということだろう。
 一人の老人が停留所でバスを待っている。すでに待ち始めて、かれこれ小一時間が過ぎようとしているのに、老人はいっこうに停留所を離れようとしない。そのとき、一台の乗用車が停留所の前でスピードを落として停車した。車のフロントウインドゥがスゥ~~っと下がり、運転席の中年男が車から顔を出した。
「おじいさん! 待ってもバス、来ませんよっ! 前の谷で落石があって、当分、通行止めらしいです。復旧がいつになるか分からんそうで、私もUターンしてきたんですわっ!」
「ああ、そうでしたか。態々(わざわざ)、どうも…」
「よかったら、乗られますか?」
「いや! 私は、ここで待ちます、待っとります!」
「そうですかぁ~? 来ないかも知れませんよっ!」
「いや、それでも待っとります。私はあのバスを待たんと日が終りませんからなっ!」
「いやぁ~、待っていると日が終ると思いますよっ!」
「いいんですよ、それで私はっ! 年中行事ですからっ!」
「年中行事? そうですか、じゃあ!」
 中年男は、変わった人だなっ! とは思ったが、口には出さず思うに留め、車で去った。
 年中行事は、そう簡単にやめられない依存症のような性格を秘めるようだ。^^

                           完

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2019年11月 7日 (木)

それでもユーモア短編集 (25)何もしない日

 ボケェ~~っと何もしない一日があってもいい…とは思える。だが、それでも腹が空(す)けば、食事を否応(いやおう)なく取らなければならない。即(すなわ)ち、何もしない日というのは、動物の場合、100%実現しない・・ということだ。眠っていたって無意識のうちに呼吸はスゥ~スゥ~、あるいはグゥ~グゥ~、はたまたガァァ~~!、グガァ~~!!などとやっている訳だ。他にも寝ごと、歯ぎしりだってある。^^
 残業続きのとある省庁である。国会審議の矢面(やおもて)に立たされた担当部署の係官は答弁書の作成に疲れ果てていた。見かねた主席の係官がデスクでウトウトする係官の肩を軽く叩(たた)いた。
「君、もういい。私が変わるから帰りなさいっ!」
「しかし、この質問の場合の答弁書が…」
「どちらにしろ、違う質問が飛ぶんだから切りがないっ! 局長が答えられるだけの資料は私が準備しておくから…」
「そうですかぁ~? それじゃ、お言葉に甘えて…。実はここ一週間、続いてまして、疲れてるんです。助かります」
「ああ、毎日見てるから、君が疲れてるのは分かってるよ…」
「しかし、予算審議は進めて欲しいものですよね」
「ああ、予算委員会で予算審議を何もしない日というのも、いかがなものか・・だな。後日(ごじつ)、理事会で協議してもらいたいものだよ、ははは…」
 主席の係官は、議員の言い回しを真似(まね)た。
「政(せい)も政、官(かん)も官、財(ざい)も財ですか?」
「馬鹿を言っちゃいかん! 官は私らじゃないかっ! ははは…」
「ははは…そうでした」
「次の日曜は何もせず、ゆったりと休みなさいっ!」
「はい、有難うございますっ! 何もしない日にします」
「何かはするだろうがね、ははは…」
「ははは…。それじゃ、お先に…」
 係官はデスクを消灯し、席を立った。
 何もしない日というのは、思った以上に難しいのである。^^

          
                  完

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2019年11月 6日 (水)

それでもユーモア短編集 (24)追(お)う

 何事(なにごと)も追(お)われるよりは追う方が安心感があり、気分がいい。のんびり寛(くつろ)いでいると、それでも! と社会は人を追いたてる。そうなることを防ぐには逆に、追う内容を追えばいい。逆に追うとは、先行することを指(さ)す。
 とある中央省庁のとある課である。来年度予算を折衝(せっしょう)するヒアリングが迫っていた。
「来年度当初はっ?」
「はあ、一応は…」
「どれどれ…。…いやぁ~これだと君、バッサリ削(そ)がれるぞっ!」
「…そうですか?」
「だって、そうだろ。残額の流用充当が目立つじゃないか。いらないと判断されれば、バッサリ! だよっ!」
「斬られますか!?」
「ああ、脳天唐竹割(のうてんからたけわ)りで一刀両断だなっ! ははは…」
「ど、どうしましょう?」
「認めさせるには、仕事を追う!」
「はあ?」
「分からないヤツだな。暈(ぼか)すんだよっ! 暈せ暈せっ! 水彩画の要領さ、君」
「はい、とにかく追ってみます」
「ああ、追いなさいっ! どんどん追いなさいっ!  ははは…」
「はいっ!!」
 そして、桜が咲く四月を迎えた。予算は追う努力が実ったのか、なんとか認められた。だが予算総額は各省庁で暈された挙句(あげく)、増え、過去の起債額も増え続けることになった。
 こういう場合のそれでも! は、追わない方が国としてはいいようだ。^^

           
                 完

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2019年11月 5日 (火)

それでもユーモア短編集 (23)続ける

 私は、つれづれなるままに…を記(しる)した超有名な兼行法師ではないものの、すでに十数年以上も駄文(だぶん)を書き連ねている。取り分けて続ける必要に駆られて・・ということででもないが、馬鹿のように連ねている訳だ。^^ 読者の方々が寛(くつろ)がれる一助(いちじょ)にでもなれば…と偉そうに考える次第である。^^
 人がどう思おうと、それでも続ける原動力とは何なのだろう? と探るのは興味深い。それを表(あらわ)すいい言い回しがある。頑(かたく)な・・という形容動詞である。ただ、ひたすら意固地(いこじ)に◎◎をする・・などという意味合いで使われるが、続ける気分の源泉となる言葉だ。そんなことで、私はお馬鹿のように続けている訳だ。^^
 桜並木(さくらなみき)の近くにある茶屋の長椅子(ながいす)に座り、チラホラと咲き始めた桜を朝から夕近くまで飽(あ)きもせず、ただひたすら見続ける一人の老人がいる。
「そろそろお帰りになられては?」
 茶屋の主(あるじ)が、見かねて声をかけた。店先で倒れられては…という迷惑気分も少しあったが、それは思うに留(どと)めた。
「ああ、はい…。そろそろパッ!! ですかな、ははは…」
 花は咲き始めると、勢いが増幅されるという意味合いだ。店の主は客に、『それはいいんですが、茶一杯と団子ひと串で一日中、見続けるというのは如何(いかが)なものでしょう…』とも言えず、また思うに留め、愛想笑いした。
「ではまた、明日(あした)…」
「はあ、毎度…」
 店の主は客に、『明日もやはり、来なさるのか…』とも言えず、やはり思うに留め、愛想笑いした。そんな主の気持など知るはずもない老人は、決まりごとのように団子と茶の代金を長椅子へ置くと、これもいつものように楚々(そそ)と立ち去った。主は桜並木とと老人を一つの見慣れた景色として見送った。
 それでも続ける行為はいい場合、世の中に一つの風情(ふぜい)を生み出すようだ。^^ 悪い場合は語りたくない、語りたくないっ!^^

                            完

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2019年11月 4日 (月)

それでもユーモア短編集 (22)凹(へこ)む

 怒られたり、失敗したり、異性に振られたり・・と、思うに任(まか)せないことが私達が暮らす生活の周(まわ)りでは日々、渦巻いている。誰もがそうならないよう、懸命に抗(あらが)って生きている訳だが、やはり起こるときには起こる。それが単発的であれば、いつの間にか時が解決して忘れることが出来るのだが、連続して起これば凹(へこ)むことになる。この凹みを放置すれば、精神的ダメージとして心の中に蓄積して問題だ。そこで、凹んだ心を金槌(かなづち)でコツコツと叩(たた)き、内側から板金(ばんきん)の要領で修理する必要が生じる。モノは心だから見えず、実に難しく厄介(やっかい)だ。^^
 春のポカポカ陽気に誘われ、二人の男が堤防の草縁(くさべり)を散歩している。
「いい陽気になりましたなぁ~」
「そうなんですよっ! 一週間ばかり前は実に寒かったんですがねぇ~」
「そうそう! 今年は雪が多かったですからねぇ~」
「そうでした、そうでしたっ! 私も連日(れんじつ)の雪掻きで凹みましたよっ!」
「凹みましたかっ! 実は私も、なんですよっ! それでもやらないと積もるから、やります。すると、腰にジワァ~~と来て凹みます」
「凹むといけませんなぁ~。総(すべ)てが嫌(いや)になるっ!」
「そうそう! やる気がなくなりますっ!」
「そうなると、食べるものが不味(まず)くなるっ!」
「はいっ! それでもやると、疲れやすくなる! ははは…」
「負のスパイラルというやつですなっ!」
「そうですっ! 今の日本経済みたいにっ!」
「ははは…上手(うま)いっ! 私は昨日(きのう)、あなたに将棋で負け、少し凹みました」
「ははは…」
 二人はうららかな陽光(ようこう)の中、憂(う)さをぶつけ合うことで冬場の凹んだ心を治療した。
 凹むストレスには、自然との交(まじ)わりが一番、いいようだ。人も元は自然で暮らす猿だった・・ということだろうか。^^

         
                  完

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2019年11月 3日 (日)

それでもユーモア短編集 (21)出世

 どうしてもっ! と意気込んでも出世できるものではない。こればっかりは、それでも…と個人が思ってもダメなのである。^^ 要は、社会がその個人を受け入れてくれるか否(いな)か? にかかっているのだ。では、出世した者が人間としてランクが上なのか? と問えば、これも否定されることになる。人としての出来、不出来は地位、名誉、裕福などといったものとは、また別の問題と言えるだろう。議員に当選したからといって、すべての議員が政治を良くする能力があるか? は別ということだ。^^ 頭脳明晰(ずのうめいせき)な一流大学出身者は、すべて仕事が出来るか? という疑問も同じ内容の話となる。^^
 とある地方のとある町に住むとある男が、議員になって出世してやろう! と意気込んでいた。幸い、親から引き継いだ資金や有力な地盤はあったから、当然、当選だろう…と、マスコミは予想していた。ところがこの男、人当たりがいけなかった。そうなると、世間の評判も余りよくならない。三段論法(さんだんろんぽう)で選挙の票も入らず当選できない・・ことになる。結局、何度、立候補しても落選が続いていった。だが、それでも…と男は諦(あきら)めなかった。
 そしていつしか、男は80の坂を越えていた。
「もう、おやめになったらいかがですか? お耳も遠くなられましたし…」
 秘書が小声で遠慮ぎみに言った。
「ああ、目もな…」
 男は分かったような口ぶりで、呟(つぶや)くように返した。ところが、男はそれでも諦(あきら)めていなかった。ぅぅぅ…まだまだっ!! と意気込んでいたのである。
 時が流れ、男は90近くになっていた。そして選挙の日が巡った。その結果、どういう訳か男は当選した。世間の同情票による当選だった。
『ついに、出世したぞっ!』
 男は満足げな満面(まんめん)の笑(え)みで翌日、息を引き取った。
 まあ出世は、それでも! と意気込むほどのことではない・・ということだろう。^^

          
                  完

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2019年11月 2日 (土)

それでもユーモア短編集 (20)トラブル

 人が生きていく上でトラブルは付(つ)きものだ。そうしよう! と行動したことが、そうさせまいっ! と阻止(そし)されたとき、トラブルとなる。軽度であれば、双方が、それでも! の程度を下げ、相手の意を汲(く)むことで解消される訳だが、強情(ごうじょう)に一歩も引かないと、トラブルの火は益々、燃え盛(さか)ることになる。
 小学生の兄弟が、食べた食べないで言い争(あらそ)っている。
「お前が食べたから無くなったんだろっ! 他に誰がいるんだ!?」
「僕は食べないよぉ~、兄ちゃんっ! パパじゃないっ!?」
「いや、探偵の僕が調べたんだっ! お前に違いないっ! 顔にそう書いてある。正直に白状しろっ!」
「そんなぁ~~!」
 弟は必死に否定するが、それでも兄は一端(いっぱし)の探偵きどりで追撃(ついげき)の手を緩(ゆる)めず、トラブルは続く。そこへ洗濯を終えた母親が現れた。
「何よっ! さっきから喧(やかま)しいわねっ!」
「こいつが、僕が残しておいたお餅(もち)を食べたんだっ!」
「ああ、冷蔵庫のっ? アレはパパが食べたみたいよっ!」
「なんだ、お前じゃなかったのか…」
「ふぅ~~ん…」
 そこへ父親が現れた。母親は慌(あわ)ててキッチンへ去った。
「どうしたんだ?」
「ははは…パパが食べたのか?」
「なにをっ?」
「お餅」
「餅? なんだ、それはっ?」
「冷蔵庫のお餅、パパじゃないのっ?」
「? いや?」
「ママがそう言ってたよ」
「じいちゃんじゃないかっ?」
「じいちゃんは敬老会でいなかったよ」
「ばあちゃんも…」
 弟が兄に追随(ついずい)した。
「そうか…。なら、ママだなっ! ははは…」
「スゥ~っと消えたからねっ!」
「だなっ!」
 三人は小笑いし、トラブルは呆気(あっけ)なく解消した。
 トラブルは、それでも! と熱くならなければ、割合簡単に消えるようだ。^^

                         完

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2019年11月 1日 (金)

それでもユーモア短編集 (19)変化

 人の行動は、なかなか予定通りにはいかないものである。だがそこで、挫(くじ)けることなく、それでも…とアグレッシブに動くのが気力である。気力が削(そ)がれれば、最初に動こうとした行動自体が無意味となる。
 とある駅前の駐車場である。一人の男が予定が狂ったのか、自分の車の前で氷結したように呆然(ぼうぜん)と立っている。いや、立ち尽くしている・・と表現した方がいい落ち込み方だ。
「… どうされました?」
 隣りの駐車スペースに車を止めていた男が車に乗ろうとしたとき気づき、声をかけた。
「い、いや、なんでもありません…」
「ああ、そうですか。それならよかった。じゃあ!」
 男は車の前ドアを開け、乗り込もうとした。そのときである。
「あっ! あの、もし…」
「はあ? …はい、なんでしょ?」
「つかぬ事をお訊(き)きしますが、この左横で屋台を出されていた焼き芋屋さ、ご存知(ぞんじ)ないですか?」
「ああ、焼き芋屋さんですか。焼き芋屋さんならこの場所に樅(もみ)の木が植えられるそうで、裏地へ引っ越されましたよ」
「ああ、なるほど…。そういう変化でしたか。ははは…小さい変化でよかった!」
「えっ!?」
「いや、なんでもありません…」
 男は、行動を変化させず、それでも立ち続けていてよかった…と、心の底で得心した
 変化が起こっても、それでもと、冷静に対処するのが、行動を上手(うま)くいかせる秘訣(ひけつ)のようだ。^^

         
                  完

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