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2020年1月

2020年1月31日 (金)

助かるユーモア短編集 (10)逆風

 逆風だっ! と言う場合がある。自分のしようとしていることに対して反対の動きがある場合などに使われる例(たと)えだ。もちろん、気象状況で、風が進もうとする逆方向へ吹く場合にも使われるが、社会生活で使われる場合は、もっぱら前者だ。では、この逆風に対してどう向き合うか? ということになるが、解決策はすごく簡単で、単純にスゥ~~っと流されることで解決されるのだ。━ 長いものには巻かれろ ━ という格言めいた言葉どおりで、吹く風の方向には逆らわず、吹く方向へUターンすればいい・・というだけの話だ。優柔不断(ゆうじゅうふだん)と言われようが何と言われようが、そうすればいいのである。ただ、風の流れに逆らわない生き方が出来るには、心に一本、確固(かっこ)とした信念が備わっていなければならない。備わっていないと、あいつはお調子者だっ! などと非難された場合、悩んで元も子もなくなる。まあ、逆風には順風で吹き返す・・という手立てもなくはないが、周囲に金、地位、名誉、伝手(つて)、コネなどといった吹き返せるだけの力が必要となってくる。
 株屋(かぶや)と呼ばれる、とあるプロの投資家集団の事務所である。大手のヘッジファンドと真っ向から渡り合う意気のいい小人数の事務所だ。
「…所長! 今は逆風ですっ! 助かるには引きますかっ!!」
「だなっ!! 今は売りでいこう!」
「分かりましたっ! 逃げですねっ!!」
 所員数人のパソコンを握る両手が動き始めた。
「いや! 逃げる訳じゃないっ!」
 数人の所員の両手が動きを止めた。
「飽くまで、そう思わせる陽動(ようどう)作戦だっ! やつらが食いついたところで吊(つ)り上げるっ! 今度のモノはでかいぞっ! よし、行動だっ!!」
「はっ!」「はいっ!」「…!」
 数人の所員の両手が、また動き出した。
 数日後、ヘッジファンドは企業活動不能となり、白旗(しろはた)を掲げて株屋に降伏した。
 こんな筋立てのように、逆風から助かる知恵・・と呼ばれる手法も、あるにはある。^^

         
                   完

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2020年1月30日 (木)

助かるユーモア短編集 (9)感激

 相手を感激させることで助かる場合がある。そうなるためには、普通のことをしているようではダメだ。1に努力、2に努力、3、4がなくて5に努力・・というほどのものである。^^ 努力することで普通を上回り、普通の人を、オオッ! と感激させることができるのだ。ただ、計算し尽くされた努力だと感激は生まれない。ええっ!! という意外性が感激を呼ぶ訳である。取り分け、その意外性により助かることにでもなれば、その感激は一層(いっそう)、増幅(ぞうふく)されることになるだろう。このお話も、そういった類(たぐ)いの出来事だ。
 とあるコンサートホールである。どういう訳か予定された開演時間だというのにコンサートは始まっていなかった。
「どうしたんでしょうねぇ~?」
「…えっ? ああ、そうですなぁ~」
 指定席の椅子で隣り合わせた二人が話し合っている。しばらくして、女性の館内放送の声が静かに流れた。
『道路事情により出演者○○○○の到着が遅れております。ご迷惑をおかけいたしますが、到着までの間、◎◎◎◎の歌をお楽しみください』
「◎◎◎◎? 誰なんでしょうな? 余り聞かない方ですが?」
「前座とかあるじゃないですか。同じ所属のデビュー前の方と違いますか」
「ああ、なるほど…」
 しばらくすると、館内放送が流した新人歌手◎◎◎◎が静かに登場し、ひと言(こと)、挨拶をしたあと、静かに歌い始めた。このデビュー前の新人歌手が歌っている間に到着すれば、有名歌手○○○○は一応、助かる訳である。
「オオッ!」「…!」・・・・・・・
 曲のよさと新人歌手の歌の上手(うま)さに、場内は一瞬にして感激の坩堝(るつぼ)と化した。
「いいですねっ!!」
「はいっ!! もっと遅れりゃいいんだっ!」
「ははは…そこまで言えば悪いですよっ!」
「ははは…」
 遅れたお蔭(かげ)で、デビュー前の新人歌手の登場となり、助かるはずの有名歌手○○○○は全然、助からなかった・・というお話である。意外な出現は感激を呼ぶ訳だ。^^

        
                    完

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2020年1月29日 (水)

助かるユーモア短編集 (8)正しい運び方

 物を運ぶ場合、目的を達すればそれでいい・・と普通は思うが、実はそうではなく、正しい運び方というのがあるのだ。^^ 何を言ってるんだっ、あんたはっ! とお怒りの方もあるだろうが、事実なのだから仕方がない。運び方が悪いと、正しい運び方で運んだ場合と同じように目的は達せられるが、その先に展開する結果が全然、違ってきて、助かるものも助からないというのだから怖(こわ)い。^^ ただ、正しい運び方をしても助からない場合も当然、あるにはある。このお話も、そんな一例である。
 とある片田舎(かたいなか)である。地方道を車で走って事故に遭遇(そうぐう)し、怪我(けが)をした男がパトカーで病院へ運ばれようとしていた。掠(かす)り傷だから、運ばれている自分の立場を忘れ、とやかく口が五月蝿(うるさ)い。
「あと何分で着くんです、いったいっ!」
「いやぁ~、そう言われても、ここいらは病院がねえんでねぇ~~旅のお方」
 横柄(おうへい)な口を利(き)く男だな…と警官は思ったが、立場上そうとも言えず、聞き流した。
「まあ、それはいいとして、病院はあるんでしょうなっ!」
「そりゃ~、あるこたぁ~ありますよ」
「こんな掠(かす)り傷、どうでもいいからっ! 駅へ、駅へ頼みますよっ! 今日、着かんと、間に合わんのですっ!」
「そりゃそうなんでしょうがね。私も一応、仕事だもんでっ!」
 巡査も負けてはいない。これが正しい運び方なんだっ! と心に言い聞かせながら、反発して返した。
「分からん人だっ! 私がいいと言ってんだから、それでいいでしょうがっ!」
「いやいや、そういう訳には…。おっ! 見えてきましたっ!」
 巡査の声に男が外を見遣(みや)ると、車が走る前方遠くに民家が見えてきた。だがそれは、どこから見ても病院ではなく、ただの民家だった。
「あれが病院?」
「はいっ! ここいらでは唯一(ゆいいつ)の動物病院でっ!」
「ど、動物病院!」
「はいっ! まあ、あんたも動物なんだから、いいでしょ、ははは…」
「…」
 男は、何がははは…だっ! と怒れたが、そうとも言えず、心で俺は助からん…と思った。
 助かる軽い怪我でも、正しい運び方で心理的に助からない場合があるという、実に馬鹿げたお話である。^^

                         完

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2020年1月28日 (火)

助かるユーモア短編集 (7)物忘れ

 年老いてくると、ふと、物忘れするようになる。若くても物忘れの激しい人もいる訳だが、^^ まあ、世間一般の相場では老齢(ろうれい)の人に多いということだ。物忘れは記憶が脳内から消え去る現象だが、文明進歩の昨今(さっこん)、何か入れておく記憶回路保管装置のような入れものでも発明願えれば有り難い限りだ。^^
 ここは、とある将棋愛好会の集会場である。多くの年老いた愛好家が二人一組で盤面を前に対峙(たいじ)し、将棋を楽しんでいる。
「いやぁ~もう、ダメですなっ! 最近はサッパリいかんです。棋譜(きふ)を10分後には忘れとりますからな、ははは…」
「10分後ですか。そりゃ、いい方だっ! 私など覚えた途端、物忘れですわっ、ははは…」
「ははは…。しかし、それでもまあ、棋力(きりょく)は上がっとりますから、それはそれで助かる訳ですが…。アレはどういう訳なんでしょうな?」
「はあ…おそらくは、忘れた分、発想が増えるとか・・なんでは?」
「増えますか? ははは…増えとるかどうかは分かりませんが、まあ助かることは助かっとります」
「今度、知り合いの医者に訊(き)いておきましょう」
「ほう! お知り合いにお医者がっ?」
「はあ、耳鼻科ですが…」
「耳鼻科!?」
 言われた老人は、そりゃ無理だろう…とは思えたが、言い返さずスルー[通す]した。サッカーでいうところの計算し尽(つ)くされたパス回しである。^^ ただ、ボールの行方(ゆくえ)は分からず、物忘れしたかのように二人の会話は途絶えた。
 このように物忘れは、状況により助かる場合も困る場合も出てくる訳だ。^^

          
                  完

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2020年1月27日 (月)

助かるユーモア短編集 (6)幸運

 おっ! これはこれは…と思える予想外の展開で危機から脱して助かることがある。幸運・・と呼ばれるものだが、目に見えない何らかの力に助けられる訳だ。目に見えないからお礼のしようもなく、ペコリッ! と、頭を下げることくらいしか出来ない。^^ 
 二人の老人が病院の待合所の椅子で話し合っている。
「と言われますと、そう大してお悪くはない訳ですな?」
「ええまあ…。悪いところだらけで、コレっ! といった悪いところが思いつかんのです、ははは…」
「それが、なにより! 悪いところだらけは、幸運なことに助かりますからなっ! ははは…」
「助かりますかっ?」
「ええ! 助かります。現に私が20年来、悪いところだらけで幸運にも助かっておるんですからっ!」
「で、今は?」
「んっ? ええ、まあ…そこそこっ!」
「そこそこっ?」
「はい、今日もこうして弁当持参で来ておる訳ですからな…」
「弁当持参? 診察はっ?!」
「診察? 診察は受けません。時間になれば、茶を買い、食べて飲んで帰るだけです」
「ええっ~~!?」
「病院の空気に触れると、幸運なことに病気が不思議にも遠退(とおの)きますからなっ!」
「遠退きますかっ?」
「はい、遠退きます、幸運にも…。おっ! そろそろ茶を買う時間だっ!」
 そう言って立つと、老人は売店へと向かった。
 まあ、幸運で助かる・・とは、こうした曖昧(あいまい)なものだ。^^

         
                  完

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2020年1月26日 (日)

助かるユーモア短編集 (5)お決まり

 世間では誰が言うともなく行われる[お決まり]のコースがある。社会常識として日常で起こる現象で、別にしなくてもいい訳だ。^^ だが、しないと周囲の者から冷たい目で見られるから、それを避(さ)けるために、いつの間にか、するでなくさせられている行為である。自身がそう思えれば、それはそれで何の問題もない訳だが、そう思わない人にとっては目に見えない強制力があり、納得(なっとく)できる愉快なものとはならない。^^
 通勤、通学ラッシュ時の、とある駅に到着した電車内である。多くの乗客がドアが開いた途端、車内に雪崩(なだれ)れ込み、ごった返している。その中に紛(まぎ)れ込むように乗った老婆が、周(まわ)りを多くの客に取り囲まれ、苦しそうにしている。縦長(たてなが)の座席が目の前にあるのだが、状況は悪く、ぎっしりと人が座っている。老婆の周りに立つ客達は、気の毒そうな目で老婆に視線を送る。そして、その目は座っている客達を冷たい視線で舐(なめ)るように見回す。恰(あたか)も、『立って譲(ゆず)るのがお決まりだろうがっ!』とでもいう目つきだ。やがてその視線は、必死に小型ゲーム機を弄(いじく)っている中学生に一点集中した。中学生は気づかず、黙々(もくもく)とゲーム機の画面を見続ける。『こりゃ、ダメだっ!』と思えたのだろう。立っている客の視線は、次の獲物を探すかのように二人の青年サラリーマンへと向けられた。一人はスゥ~スゥ~と快(こころよ)い寝息を立てながら首を振り振りウトウトしている。もう一人は真面目(まじめ)に目を開けて座っているだけだ。
「ぼ、僕ですかっ!?」
 視線の圧力に屈(くっ)したのか、真面目に座る青年サラリーマンはそう言いながらヒョイ! とその場で立ち上がった。ウトウト眠るもう一人の青年サラリーマンは、頑張りの残業続きで睡眠不足だった・・という事情があった。
 頑張っていれば、結果としてお決まりのコースから逃(のが)れられ、助かる[注;助からない場合もある]・・という、これもどうでもいいような話である。^^
 

                           完

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2020年1月25日 (土)

助かるユーモア短編集 (4)暗示(あんじ)

 受験シーズンともなれば、神社仏閣が多くの参詣(さんけい)客で賑(にぎ)わう。もちろん、神様や仏様の有り難いご利益(りやく)を頂戴(ちょうだい)して合格させて貰(もら)おう・・という厚かましい意図(いと)でのお参りだ。参る方は助かりたい一心なのだが、神様や仏様にすれば、そう暇(ひま)を持て余している訳でもないから、忙(いそが)しくなってお弱りのことだろう。
『チェッ! これしきのお賽銭(さいせん)でアノ大かいっ! 厚(あつ)かましいにもほどがあるっ!』
 とは、お思いにならないだろうが、忙しくなるのはお望みではなかろう。^^ そして、合格を果たせば、浪人しなくて助かった…と、そのご利益を有り難く思う訳である。だがこれは、ご利益というより自己への暗示によるところが大きいのだ。それは信心する心が強ければ強いほど増幅される。
 W杯[ワールド・カップ]たけなわの、とあるサッカー場である。観客席には自国チームを応援しようと、多くのサポーターが詰めかけている。試合は1-1で、このまま終了すれば予選敗退、勝てば勝ち点が上回り、決勝トーナメントへ進出できるという、際(きわ)どい剣が峰の一戦だった。
「ダメそうだな…」
「そんなこたぁ、絶対ありませんよっ! きっと勝ちますっ! 今に点が入りますっ!!」
「そうかい? …残りはアディッショナル・タイム6分だよっ!」
「ははは…大丈夫! 6分もありゃ~ぁ! コレがありますっ!」
 訊(き)かれたサポーターは自信ありげに胸元から特大のお守りを取り出した。
「なんだい、そりゃ!?」
「ははは…こういうものですよっ! お、お頼みいたしますっ!!」
 特大のお守りを取り出したサポーターがお守りを頭上(ずじょう)に掲(かか)げたそのときだった。観客のどよめきが一層(いっそう)、大きくなった。応援チームに貴重な追加点が入ったのだ。
「ねっ!!!」
「ああ!!!」
 暗示は助かる力となる。いや、助かる力となる場合もあるという、そんな曖昧(あいまい)なお話である。^^

         
                  完

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2020年1月24日 (金)

助かるユーモア短編集 (3)もうダメだ…

 何をしても思うようにいかなくなったとき・・そんな状況を人は万事休すと言う。別に万事でなく千事でもいいと思うのだが、まあそう言うのだからそうしておこう。^^ 万事休してもうダメだ…というとき、思ってもいないことで助かることにでもなれば、その喜びは途方もなく大きなものに違いない。今日は、そんなお話だ。
 昔々(むかしむかし)[once upon a time]のことである。とある片田舎に煮干(にぼし)村という小さな山村(さんそん)があった。百姓の与平や村人達は、長く降らない雨に弱り果てていた。日照りがこのまま続けば作物が全滅する恐れがあったからだ。
「弱ったのう。ああ、弱った弱った…」
 少しも弱っていないような顔で、与平は村人達にそう言った。
「ったくっ! おめぇ~は、ちっとも弱っとりゃせんがっ!」
「んだっ、んだっ!」
 他の村人も与平の顔を見ながら異口同音(いくどうおん)にそう言った。与平が弱っていないのには一つの理由があった。与平には天から授(さず)かった先を見通せる能力があり、三日もすれば潤(うるお)いの雨が降ることが疾(と)うに分かっていたからである。
「いやいや、弱っとるよぉ~、おらぁ、十分に弱っとるっ!」
 そう言う与平の顔を、訝(いぶか)しげに村人達は取り囲んで眺(なが)めた。
 そうこうして、三日ほどが経ち、村の者達が待ち望んだ念願の雨が降り注(そそ)ぎ、田畑を潤した。もうダメだ…と、半(なか)ば諦(あきら)めていた村人達の喜びは一入(ひとしお)だったが、それに比べ与平の喜びは今一つ・・といったところだった。近々(ちかぢか)、雨の降ることが予見(よけん)できたからである。
 心底、困り果て、もうダメだ…と思っていたときに助かる喜びは格別だ・・という、どうでもいいようなお話である。^^

         
                  完

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2020年1月23日 (木)

助かるユーモア短編集 (2)特効薬(とっこうやく)

 その薬(くすり)さえあれば、向かうところ敵なしっ! というほど効(き)くのが特効薬(とっこうやく)だ。その薬があれば確実に助かる訳だが、これは別に身体の病気や怪我に限ったことではなく、他の場合でも使われる。ただ、お馬鹿な人につける特効薬はないそうだ。^^
 とある喫茶店である。ガラス越しの席で二人の客が対峙して話し合っている。
「ほらっ! あいつ、今日も彼女に迫ってるぜっ!」
「公衆の面前(めんぜん)で、よく飽(あ)きもせず、やるよっ!」
「ああ…俺なら脈(みゃく)がないと分かりゃ、さっさと諦(あきら)めるがなっ!」
「あら、ダメだ…。ほらっ! また振られたぜっ!」
「諦めさせる特効薬があればいいのになっ!」
「ははは…そりゃ無理だろっ! ━ お医者さまでも草津の湯でも 惚(ほ)れた病(やまい)は治(なお)りゃせぬ ━ って言うぜっ!」
「だなっ!」
 ガラス越しに男女の遣(や)り取りを見ていた二人の客は、見るのをやめ話題を変えた。
 特効薬も場合によっては効かない・・というお粗末なお話である。^^

          
                  完

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2020年1月22日 (水)

助かるユーモア短編集 (1)助かる

 人生を歩んでいると、いろいろなところで人に助けられ、助かっている・・という事実に気づかされる。もちろん、全然気づかず、気づかないまま生きている人も多い訳だが、この助かる・・という事実に着目(ちゃくもく)して話を起こすのも面白いのではないか?  と思わなくてもいいのに思った次第だ。^^ これから展開するお話は、日常で起きている、そんな助かるお話の数々である。
 とある飛行場である。一人の乗客がキャンセル待ちの搭乗券
を求めて窓口で係員と話をしている。
「いや! どうしても帰らないと具合が悪いんですっ!」
「そう申されましてもお客さま、すでに完売されておりますので…」
 そんな美人でないにもかかわらず、化粧を塗りたくって美人に見せようとしているキャリア・ウーマンが、『こちらは、ちっとも具合悪くないわっ!』と内心で思いながら、そうとも言えず、笑顔で返した。
「なんとかならないですかっ! キャンセルがあれば助かるんですがっ!!」
「はあ、予約のキャンセル待ちですね? …あちらでおかけになって、しばらくお待ちくださいませ…」
 係員は、『出るわきゃないでしょ!!』と内心で思いながら、そうとも言えず、ふたたび笑顔で返した。
 乗客が待合室で心配顔で座っていると、もう一人の乗客が隣りの椅子へ座った。
「どうされました?」
「はあ、実はホニャララで弱っておるんです…」
「なんだっ! ホニャララですかっ!! 私も同じ便ですよ! 奇遇ですなっ! 私、一便遅らせても別に構わないですから、よろしければお譲(ゆず)りいたしましょう!」
「ええっ! 助かります…」
 乗客はもう一人の乗客に深々と頭を下げて礼を言った。
「そんな…」
 もう一人の乗客は、搭乗券を渡し代金を受け取ると、楚々と窓口へ向った。
 このような助かる偶然がドラマチックに起きることもある訳だ。^^


                           完

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2020年1月21日 (火)

それでもユーモア短編集 (100)最後に…

 どういう訳か、人は格好をつけたがる。世間や人前での体裁(ていさい)を気にするからだ。別に人がどう思おうといい訳だが、それでも人は体裁を気にして、自分の意思を抑(おさ)えようとする。例(たと)えば、多くの人前で演説(えんぜつ)をしているときなど、演説を終える前に、最後に…と、格好いい言葉を決め台詞(ぜりふ)にして語ったあと、格好よく壇上から消えるのである。別に、最後に…と言う必要はなく、始めに…と最初に言ってもいい訳だ。^^
 とある選挙戦がたけなわの頃のお話である。草虫(くさむし)候補は今回を最後にしようと出馬した候補者だった。その草虫候補が演説を行っている。
「皆さまのお蔭(かげ)をもちまして、10期の当選を果たさせていただきましたっ! 厚く御礼(おんれい)を申し上げる次第でございますっ! そんな私ではございますが、今回を最後のご奉公にさせていただきたく、かく出馬をさせていただいた訳でございますっ! 何卒(なにとぞ)、皆様方の最後のご支援を賜(たまわ)りますよう、高段からではございますが、重ねてお願いを申し上げる次第でございますっ!!」
『おっ、いいぞっ! がんばれっ!!』
 多くの人込みの中には、そんな声援の声もチラホラ聞こえた。
 選挙戦が終わり、草虫候補は見事、11期目の当選を果たした。ところが、草虫候補は、この選挙を最後に…とは、ちっとも思ってはいなかった。12、13、いや、死ぬまで出続けてやるぞっ! と熱く思いを変化させていたのである。
 このように、人の心は最後に…と思いながら、それでも最後にならないのだから油断がならない。^^

         
                  完

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2020年1月20日 (月)

それでもユーモア短編集 (99)企業

 企業とは個人では成し得ない生業(なりわい)を企(くわだ)て、世の中に貢献する組織である。決して金儲(かねもう)けで肥え太ることを最終目的とする組織ではない・・とは、いつぞや聞いたような聞かなかったような夜間の講義である。^^ それは分かっているのだろうが、厳(きび)しい生存競争をかけ、それでも企業は企業を続けねばならないのが辛(つら)いところだ。^^
 ここは、とある中堅企業である。なんとか同種の大手企業に打ち勝とうと社長の皺宮(しわみや)は、社長椅子で腕組みをしながら策を練(ね)っていた。そこへ、入ってこなくてもいいのに秘書室長の若肌(わかはだ)が社長室へ陽気に入ってきた。
「ははは…いつもながら、お元気そうでなによりでっ!」
「君はいつも、そんな馬鹿なことを言って入ってくるが、なにか心配ごとは他にないのかねっ!」
「はあ、そういう社長は、いかがなんでございましょうか?」
「私かっ!? 私はいつも会社のことで悩んどるよ。能天気な君と一緒にしてもらっちゃ困るっ!」
「いや、それは余(あま)りにっ! ははは…」
 若肌は血色のいい頬(ほお)を紅潮(こうちょう)させて愛想笑いした。愛想笑いで気持を暈(ぼか)すところがこの男の得意とするところで、今まで一度も社長の機嫌を損(そこ)ねたことがなかったのは、ある種の特技とも言えた。
「それはそれとして、大手に打ち勝つ、何か妙案でもないかね、君?」
「と、申されますと?」
「分からないか? 長髪(ながかみ)グループ‎に先を越されそうじゃないかっ!」
「ああ、長髪グループですか…。でしたら! こちらは角刈(かくが)りの束子(たわし)頭でやり返しゃ、いいじゃありませんかっ! ははは…」
「ほう!! 束子頭ねっ! …それは気づかなかったぞっ! よしっ! すぐに専務を呼んでくれたまえっ!」
 皺宮は何が頭へ浮かんだのか? 急に相好(そうこう)を崩(くず)した。
「分かりましたっ!!」
 若肌は陽気な早足で社長室から出ていった。
 危機に瀕(ひん)した企業が、企業としてそれでも存続していくには、奇抜(きばつ)なアイデアが必要なのかも知れない。^^

                            完

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2020年1月19日 (日)

それでもユーモア短編集 (98)極(きわ)める

 いろいろなこと[諸事(しょじ)]に精通(せいつう)し、その行き着く先を極(きわ)める・・というのは並大抵(なみたいてい)のことではない。いいところまでいくと、まるで賽(さい)の河原で子供が積んだ石を鬼が無慈悲に崩(くず)すみたいな感じがこの世の現実なのである。それは狡猾(こうかつ)な欲望という形に姿を変え、アノ手コノ手と吹きまくる。それでも人は風に向かって努力する訳だ。まあ、柳に風と吹き流せばいい訳だが、人は脆(もろ)く、ついつい欲に溺(おぼ)れてしまう。私など、溺れっぱなしで生きている。お地蔵様にお救いいただきたいくらいのものだ。^^
 冗談はさておき、極めた人は達人と呼ばれるが、極める・・という概念(がいねん)自体、漠然(ばくぜん)としていて捉(とら)えどころがないから、コレッ! という数値や形で表せないのが難点だ。それでも人は極める到達点を目ざして日々、究(きわ)めている訳である。^^
 ここは、とある柔道場である。早朝から賑(にぎ)やかな稽古の声が辺(あた)りに谺(こだま)している。
「先生っ! 朽木括(くちきくく)りの荒技(あらわざ)、完成されましたかっ!!」
「いや、未(いま)だに極めるのが叶(かな)わんでのぉ~!」
「そうでしたか…。ご健闘をお祈りいたします」
「おお! ありがとう!」
 師範は師範代へ、どうも、無理だな…とは思えたが、それでも自信ありげに返した。
 まあ、極める・・というのは、そんなもののようだ。^^

          
                  完

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2020年1月18日 (土)

それでもユーモア短編集 (97)回転

 地球は回転しているようだ。^^ というのも、私自身が回転している…と実感したことがないからである。回転する機械の中なら眩暈(めまい)するほど感じるのだろうが…。回転しながらの食事は、さぞ疲れるだろうし、食べられないかも知れない。^^ で、回転を実感しないから食べていられる・・ということになる。実感はないが、それでもお日さまが東から昇り、夕方になると西へお隠れになることで、朧(おぼろ)げながらも回転しているんだ…と感じる程度なのである。そして、その回転が繰り返され、月日が経(た)ち、年が経って時代が経っていく。経ってはいくが、回転しているから、おやっ? こんなこと、前にあったぞ…と繰り返しに気づかされる。ただその繰り返しの現象や流行は、過去とは違い、少し進化した形に姿を変えて社会に現れる。要は、回転寿司のような回転はしていないという訳だ。^^
 とある駅の改札である。片田舎(かたいなか)から出てきた一人の客が駅員に訊(たず)ねている。
「あのぉ~、いつになりゃ~ドコソコへいけるんで?」
「ああ、ドコソコへ行かれるんですか? でしたら、この電車で大丈夫ですよっ」
「ほんとに大丈夫なんで? ここで下りるの、二度目なんですがのぉ~」
「二度目? どういうことでしょう?」
「いやぁ~、知らねぇ~うちに、またこの駅へ戻(もど)りよりましてのぉ~、ははは…」
「あっ! ああ!! 分かりました。ははは…それはですね、この線路が回転しているからです」
「回転? そげにややこしい電車なんですかいのぉ~?」
「いや、環状線(かんじょうせん)ですから、ややこしくはないと思いますが…」
「そうは言われますがのぉ~、戻りよりましょうが…」
「いえ、戻るまでにアレコレで乗り換えます」
「あ~あ~、アレコレで乗り換えて、で、ドコソコでしたかのぉ~」
「ははは…そうです。回転し過ぎです」
「回転し過ぎよりましたかのぉ~、ははは…」
 回転すれば同じ所へ戻るが、それでも途中で抜け出せば、新しい展開が回転し始める訳だ。^^

          
                  完

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2020年1月17日 (金)

それでもユーモア短編集 (96)落ちつく

 世の中の物事は、落ちつくところへ落ちつくように上手(うま)く出来ている。そうなるためには落ちつくことが必要となる。^^ 取り分けてダジャレを言っているつもりではないが、そうなのだから仕方がない。この、落ちつくところへ落ちつく・・という現象は、良い悪いに関わらず、すべてがそうなるというのだから面白い。悪いことを企(たくら)んで上手くいったとしても、最終的には御用っ! となり、監獄(かんごく)暮らしで落ちつくように出来ている。^^ 時効とかで完全犯罪だっ! などと粋(いき)がってみたとしても、しょせんは悪事を働いた自分自身までは欺(あざむ)くことが出来ない。死に至るまでその罪を引き摺(ず)って生き続けることになり、チ~~ン! と鳴らされ、線香の一本も手向(たむ)けられて落ちつく・・といった寸法だ。^^ だから、落ちつくためには余り悪いことは…という結論に至る。^^
 朝から落葉が舞い落ちる中を、せっせと掃(は)いている奇特な老人がいる。よ~~く考えれば、掃いたあとからあとから落葉が舞い落ちるのだから掃く意味がないように思えるのだが、その老人は掃き続けていた。するとそこへ、近くの主婦が買い物帰りに通りがからなくてもいいのに通りがかった。
「ほほほほ…ご精(せい)がでますこと!」
「ああ、どうもどうも…」
 聞きようによっては小馬鹿にされている…と取れなくもない言われ方だったが、その老人は、それでも柳に風と聞き流した。
「ほほほほ…あらっ! また落葉が肩に…」
 このひと言も聞きようによっては、いくら掃いてもムダですわよっ! …と取れなくもない言い方だったが、老人は臆(おく)することなく主婦へ返した。
「ははは…掃いてますと、どういう訳か落ちつきましてなっ!」
「ほほほほ…」
 主婦は、落ちつくんかいっ! と取れなくもない愛想笑いで通り過ぎた。
 どんな形であろうと、本人が落ちつくなら、それでもいい・・ということになる。^^

        
                  完

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2020年1月16日 (木)

それでもユーモア短編集 (95)窓口

 最近の受付は、なんとも味(あじ)けない・・と聞いたので、私も行ってみた。で、確かにそうだな…と思えた。^^ まったく、愛想がないのである。これが客に対する態度かいっ! 社員教育はいったいどうなってるんだっ! と怒れたが、口には出さず思うに留(とど)めた次第である。内部はさておいても、窓口は笑顔で愛想よく、{^^『ペチャクチャ…』}という感じで客に接してもらいたいものだ。[1]笑顔がなく、[2]事務的で、[3]的(まと)を得ていない・・となれば、これはもう、アウト!! と叫ばねばならない。世の中の趨勢(すうせい)は最近、頓(とみ)にこうした色彩を強めているが、実に嘆(なげ)かわしい限りである。内部が修羅場の様相(ようそう)を呈(てい)していようと、窓口だけは愛想いい笑顔であって欲しいものだ。^^
 とある会社のエントランスである。朝、いつものように大勢の社員が出勤し、それぞれの所属課へと散っていった。当然、その中には管理職や重役連中も含まれていた。
「おいっ! あのおばさんっ! なんとかならんのかねっ!!」
 大声で窓口を指さしたのは、社長の鰻川(うながわ)だ。窓口にはオールドミスの土壌(どじょう)が偉(えら)そうな顔つきで座っていた。
「はっ!! さっそく人事にその旨(むね)を伝えますっ!」
 鰻川のひと言に、まるで怖いものにでも触(さわ)るかのように秘書課長の尾小是(おこぜ)は追随(ついずい)した。
「愛想いいピチピチの若い娘(こ)を、だよっ!」
「はあ、そらもう! 分かっとります…」
「ちっとも分かっとらんじゃないかっ! あれほど言っておいたのに、あんなモノノケみたいなババアをっ!」
「社長、いくらなんでも、そこまでおっしゃられちゃ!」
「いや、今日は言わせてもらうっ!! 窓口こそ会社を現(あらわ)すっ!」
「ははぁ~~!!」
 尾小是は、まるで水戸のご隠居の印籠を見たかのように鰻川に一礼した。
「私に、そんなことはしなくていいんだよっ! くれぐれも窓口は頼んだよっ!!」
 実のところ、鰻川には若い頃、土壌に振られた苦(にが)い経験があったのである。遠い昔のことが、それでも尾を引いていた訳だ。ある意味、パワハラ[パワーハラスメント]ぎみなのだが、一応、筋が通った話だから仕方がない。
 窓口には尾を引かないOLを配置したいものだ。^^

          
                  完

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2020年1月15日 (水)

それでもユーモア短編集 (94)美味(おい)しくいただく

 どうせ食べるなら、美味(おい)しくいただく・・というのが本筋だ。それでも、腹が減っているときは、そんなことは言ってられないから、ガッつくように貪(むさぼ)り食べてしまうことになる。^^ 人に限ったことではないが、食べないと死んでしまう・・という弱点を動物は持つ。人に生まれた特典の一つに味覚があるが、美味しくいただくためには、それなりの[ゆとり]が必要となる。料理番組ではレシピとか盛り付けで、その食材の最高ランクの美味しいいただき方を解説するが、そんな味わい方が出来るのは、ゆとりのある人、ということになる。それでも、食べ物は美味しくいただけるに越したことはないから、最終的には、どれだけ美味しく作れるか? という調理の腕になるだろう。^^
 ここは、とあるテレビ局である。朝から、とある料理番組の収録[録画撮り]が、とあるスタジオで行われている。司会の女性アナウンサーとゲストの女性料理家が、どうのこうの[どうたらこうたら]とペチャくりながら、美味しくいただけるように、とある料理を作っている・・という寸法だ。
「先生、これで美味しくなるんですか?」
「ええええ、そらもう! 美味しくいただけますわよ、ほほほ…」
「…」
 言われた女性アナウンサーは、『ほんとかしら?』とは思ったが、それでもその懐疑心(かいぎしん)は億尾(おくび)にも出さず、無言で愛想笑いした。
 しばらくして、とある料理は完成した。いかにも見た目は食欲をそそる美味しそうな出来栄(できば)えだったが、その内容は、「…お、美味しい」とひと口、味見した女性アナウンサーが泣き目で漏らした言葉で皆さんには十分、分かっていただけることと思う。ハッキリ言うなら、不味(まず)かったのである。
 美味しくいただく条件は、見た目はともかく、美味しくいただけないといけない・・という結論になる。^^

        
                  完

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2020年1月14日 (火)

それでもユーモア短編集 (93)誰がやるっ!

 もう、今日は疲れた…と心から思うことは誰だってあるだろう。だが、やらなければダメになると分かっていたとき、あなたならどうするだろう? そのまま負け犬のように諦(あきら)めるか、あるいは、疲れた身体(からだ)に鞭打(むちう)って、それでもやり遂(と)げようと必死に頑張るか・・選ぶ道は二通りに分かれる。二者択一だから、四択問題よりは正解しやいすだろう。^^ それでもやろうとする場合、心に自分がやらないで誰がやるっ! …と自分自身に言い聞かせることが必要となる。まあ、そんな大げさな話になることは、この平和な時代では、ほとんどないのだが…。^^
 とある会社の食品開発部では、他社より劣らない新商品を開発しようと日夜、懸命の努力が続いていた。そして、この日もまた、朝から研究第二課の研究課員達は頑張っていた。
「課長! これなんか、いいんじゃないでしょうか」
「どれどれ…」
 研究課長の旨味(うまみ)は、出された小皿を試飲(しいん)した。
「君! これじゃ、追い抜くどころか、どんどん差を広げられるぞっ! 頑張りなさいっ! いいところまでいっとるんだからっ! 君がやらないで、誰がやるっ!」
「はあ…」
 言われた研究課員の昆布(こぶ)は、あんたがいるだろっ! …とは思ったが、そうとも言えず、萎(な)えた顔で頷(うなず)いた。
「他の者も、君達がやらないで誰がやるっ! だっ!!」
 旨味は他の研究課員達にも釘を刺すことを忘れなかった。
「はい…」
 他の研究課員達は全員、…あんたがいるだろっ! …とは思ったが、そうとも言えず、萎(な)えた顔で頷(うなず)いた。
 そして次の日、不思議なことに新商品は完成を見た。研究課員達を萎えさせた誰がやるっ! のひと言だったが、それでも開発心を呼び覚(さ)ます何かが潜(ひそ)んでいたに違いない。^^

                           完

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2020年1月13日 (月)

それでもユーモア短編集 (92)キャスト

 皆さんもよく観られると思うが、テレビや映画の中に必ず登場するのがキャストとかの名前だ。もちろん、その作品スタッフの裏方(うらかた)なども登場する訳だが、特にこのキャストを料理に例えれぱ、どうなるだろう? と、ふと思った次第だ。暇(ひま)な人だ…他に考えることはないのかい!? と思われる方もお有りだろうが、考えてしまったのだから仕方がない。そこはそれ、一つお許しを願って、お読みいただきたい。^^
 どこにでもいそうな家庭の主婦が、どこでも作られそうな料理を作っている。言わずと知れた料理、カレーである。材料は、これも言わずと知れたジャガイモ、ニンジン、タマネギ、肉だ。これらのキャストが、調理されながら、それでも主婦の隙(すき)を窺(うかが)っては、なにやらコソコソと話をしている。
『そりゃ~当然、肉のおいらが主役でしょうよっ!』
『なに言ってるのっ! 味(あじ)よ、味っ! ルーの私がいなきゃ、話にならないでしょっ!』
『…まあ、私やタマネギ、ジャガイモさんは脇役(わきやく)だから、どぉ~ってこともないんですがね…』
『そうそう! ニンジンさんのおっしゃるとおりっ! 私らはグツグツと煮(に)られるだけのものですから…』
『ジャガイモの私も、そう思いますなっ!』
『あらっ! そうでもなくってよっ! ルーの私に、いいお味、下さってるじゃありませんのっ!』
『そう思っていただければ有り難いです』
『確かに…』『はあ…』
 そんな思いを知ってか知らずか、プロデューサーの主婦は、いつものようにキャストである材料を適当に調理し始めた。    
『あら、嫌(いや)だわっ! そんなやり方っ! ったくっ! ちっとも、上達してないじゃないっ!』
『ルーさん、おいらも諦(あきら)めましたよっ! ここへ出演したのが運の定め、とね…』
『そのとおりっ!』『そのとおりっ!』『そのとおりっ!』
 肉に促(うなが)され、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ達は、異口同音(いくどうおん)に煮込まれた。

                          完

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2020年1月12日 (日)

それでもユーモア短編集 (91)雨の日

 雨の日は晴れたあと、当然、やってくる。『ああ、雨か…』とショボくなる人もいれば、ニヤけて、『へへへ…雨か! こりゃ今日は休めるぞっ!』と北叟笑(ほくそえ)む人もあるだろう。雨の日はどこかしっとりとした感がして、静かな風情が漂う。一方、晴れた日は心がウキウキした明るい気分が訪れる。まあ、どっちでもいい訳だが、行動的には雨の日は敬遠されがちだ。運動会や遠足に雨の日は不似合いで、お呼びがかからない。間違って降ろうものなら、てるてる坊主にこっ酷(ぴど)く叱(しか)られることだろう。^^
 とある公民館の一室で俳句同好会が開かれている。同人、二人の会話である。
「一句、出来ました…」
「どれどれ、拝聴いたしましょうかな…」
「━ 五月雨を 集めて沸かす 飲み水や ━ どうです?」
「…どこぞで聞いたような?」
「ははは…雨の日ですぞ。気にしない気にしないっ!」
「雨の日?」
 意味不明な返しに詠(よ)まれた同人(どうじん)は首を傾(かし)げた。
「雨の日は、何でもあり! ということで。ははは…」
 ふたたびの意味不明な返しに、詠まれた同人は『俳句ですかな?』と、心で訊(たず)ね、苦笑した。
 二人のやり取りなど知らぬげに、それでも雨はシトシトと降り続く。
 俳句の出来がどうであれ、雨の日は何でもありのようである。^^

         
                  完

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2020年1月11日 (土)

それでもユーモア短編集 (90)人生

 何もすることがない空虚(くうきょ)な時間が出来たとき、ふと人生を考えることがある。子供の頃や青年、壮年時代はそんなことはまずないだろうが、年を重ねるようになると、頓(とみ)にそんなことが増えるようになる。そして、ボケェ~っとして、気づけば今、やろうとしていたことを忘れている・・といった塩梅(あんばい)だ。忘れたことで、ボケの始まりか…と思え、ゾォ~~っとするが、それでも生き続けねばならないのだから、人生は辛(つら)い。^^ よ~~く考えれば、人生は人それぞれで、その人にはその人の人生がある訳だから、どういう人生を歩(あゆ)もうと、他人がとやかく言う話ではない・・という結論に至る。泥酔(でいすい)して鼻糞(はなくそ)を穿(ほじ)りながら最終電車に乗り遅れたサラリーマンがホームのベンチで眠ろうと、他人がダメだっ! とは言えない話と似ている。まあ、汚(きたな)いから鼻糞は余り穿らない方がいいとは思うが…。^^
 何十年かぶりに、昔、親しかった旧友同士が、路上でバッタリと再会した。
「おおっ! これはこれは、海老尾(えびお)さんっ!!」
「やあっ!! 奇遇(きぐう)ですなっ!! 蟹崎(かにさき)さんじゃありませんかっ!」
「聞くところによれば、大層なご出世だそうでっ!」
「ははは…お恥ずかしい。たかが会社のトップになったというだけのことですよ、海老尾さん」
「いやいや、蟹崎さん。フツゥ~の者ではそうは参りませんぞ。いい人生でよろしゅうございましたなっ!」
「海老尾さんこそ、多くの家族に囲まれて、幸せにお暮らしだと誰ぞにお聞ききしましたが…」
「いやいや、お恥ずかしい。そちらだけ達者です、ははは…」
 蟹崎は単身で会社経営に成功し大富豪となり、海老尾は普通の暮らしながらも家族経営に成功し、大家族となっていた。さて、皆さんは、どちらが幸せだと思われるだろうか?^^
 人生の幸せをどう考えるか? は、人それぞれ・・ということになるだろう。勇気が必要なのか? は分からない。^^

        
                  完

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2020年1月10日 (金)

それでもユーモア短編集 (89)バックアップ

 最近の情報技術[information technology=インフォーメーション テクノロジー=IT]産業は進化の一途(いっと)を辿(たど)り続けている。このまま進化すれば、どうなるのか? 果たして人類は技術に付(つ)いていけるのか? などと、偉(えら)そうに考えてはいるが、必要最低限のことを除(のぞ)いて、ほとんど私は分からない。^^ まあ、目に見えない世界は怖(こわ)い・・ということだけは言えるだろう。なにせ見えないのだから、逮捕も修理も分かるホニャララ以外は出来ないからだ。当然、私も出来ないのだが、それでも使う必要に迫(せま)られる時代なのだから困ったものだ。^^
 秋月は日長(ひなが)一日、飽(あ)きもせずPC[personal computer=パソコン]に向っていた。なにも向わなくてもいいじゃないかっ! と思う人もあるだろうが、そこはそれ、やりかけたPC作業が思うに任(まか)せず、意固地(いこじ)になった・・という秋月の性格上の問題もある。^^ 秋月は何をやっていたのか? といえば、それはPCのバックアップ[back up=不時の事故・危険に備える支援体制=後ろだて]だった。ところが、いいところまでいくと、どうのこうの[どうたらこうたら]と指示が出て、ディスク[DVD、フラッシュ・メモリーなどのデータ{資料}を収納するメモリー{記憶媒体}]を入れたり出したりする繰り返しとなったからだ。
「ええいっ! 簡単にしろっ!!」
 秋月は、ついにブツクサとPCに向って怒(いか)りの言葉を発していた。とはいえ、相手は物だけに、返答する訳がない。^^ 秋月は次第に疲れてきた。それに腹も減ってきた。まっ! 別の機会でもいいか…と、秋月はついに重い腰を上げ、バックアップした。
 このように、バックアップは、それでも! と意固地になってやるものではない・・ということになる。^^

        
                  完

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2020年1月 9日 (木)

それでもユーモア短編集 (88)修理

 物は使っているうちにガタがくる。人も同じで、一定のピークを境(さかい)に、使っているうちにアチラコチラと痛んでくる。^^ まあ、それは仕方がないことで、この現象を人は減価償却(げんかしょうきゃく)と言う。まあ、身体の場合はそうは言わないのだろうが…。^^ 物の多少の不具合は凌(しの)げるが、それでもそのまま使っていれば、当然、傷(いた)むことになり、修理となる。人の場合は治療だろう。^^
 とある内科医院である。一人の男が診察室の椅子へ座った。
「どうされました?」
「はあ、最近、仕事が立て込んでまして、疲れでアチコチが凝(こ)るんですわ。若い頃はそうでもなかったんですがねぇ~」
「はあ、そらまあそうでしょうな。で、どうしろと?」
「どうしろなんて…。なにか凝らない方法とかあれば…」
「ははは…そりゃ簡単な話です。疲れないようにすることです、疲れないように!」
 医者は疲れないように、を強調した。
「疲れないように?」
「ええ。物も使い過ぎれば傷んで修理が必要となります。でしょ?」
「はあ、そらまあ…」
「人も同じです。修理しないでも済むようにケアすることですな」
「ケア!?」
「はい。掃除するとか潤滑油を注(さ)すとか…。ああ! あなたは人でした。栄養剤の点滴でもしておきましょう!」
「でも!?」
「ええ。まあ、ほんの気休めですがな…」
「気休め!?」
「はあ。修理する必要のないように。ははは…」
 男は、なにが、ははは…だっ! と少し怒れた。
 限界以上にそれでも使う場合は、修理の要がないケアが不可欠(ふかけつ)となる。キュ~~! っと一杯・・がケアになるのかどうか? は、定かではない。^^

          
                  完

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2020年1月 8日 (水)

それでもユーモア短編集 (87)慎重(しんちょう)

 失敗しないためには、物事を行う上で慎重(しんちょう)になることが求められる。まあそれでも、慎重になり過ぎて全然、物事が捗(はかど)らない・・というのも考えものだが…。^^
 町のとある大衆食堂である。二人の男が店に入ってきて、空(あ)いた席のテーブル椅子へ対峙(たいじ)して座った。
「何にされます?」
 女店員は馴れた仕草(しぐさ)でソソクサと水コップを運び、テーブル上へ置きながら訊(たず)ねた。
「そうだな…。俺は佃煮定食! お前は?」
「俺は味噌汁定食」
「はいっ! 佃煮定食と味噌汁定食ですね?」
 この店で一番、安いのが佃煮定食[佃煮+ご飯と味噌汁]と味噌汁定食[ご飯と赤だし味噌汁]で、どちらも沢庵、二(ふた)切れが唯一(ゆいいつ)添えられる一品(いっぴん)というのだから、貧相(ひんそう)この上なかった。フツゥ~の客なら、おっ恥(ぱ)ずかしくって頼めない安い最低ランクの品書(しなが)きだったが、それでも二人は物怖(ものお)じせず、堂々と注文した。女店員は確認すると、戻(もど)ろうとした。そのときだった。
「いや、今日は特別支給があったから、鰹節(かつおぶし)定食にしよう!」
「だな…。俺は、白子(シラス)定食っ!」
「鰹節定食と白子定食ですねっ?」
 女店員は振り向いて戻り、少し語気(ごき)強めて言った。ほんとにもうっ! 忙(いそ)しいんだからっ! という気分である。鰹節定食[鰹節+醤油、ご飯、味噌汁]と白子定食[白子+醤油、ご飯]は佃煮定食と味噌汁定食に次ぐランク2[ツゥー]の安さだった。
「いや! 待て待て…。ここは使わず、慎重にいこう。母ちゃんにドヤされる」
「ああ、俺もやめとこう…」
「何にされるんですっ!」
 女店員は、また取り消され、切れ気味(ぎみ)になり、いっそう語気を強めた。
「最初のっ!」
「俺も…」
「佃煮と味噌汁ですねっ!」
「いや、佃煮定食…」
「俺は味噌汁定食…」
「はいっ!!」
 女店員は偉いお客に出遭ったわ…という呆(あき)れ顔で店奥へと消えた。
「慎重にいかんとなっ!」
「そうそう、まだまだ何が起こるか分からんっ!」
 二人の客は顔を見合わせて頷(うなず)いた。
 いいことがあったとしても、その先、どうなるか分からないから慎重になることが求められるが、それも程度ものである。^^

       
                  完

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2020年1月 7日 (火)

それでもユーモア短編集 (86)争(あらそ)い

 皆さんは争(あらそ)いに勝利はあるとお思いだろうか? そりゃ、勝った方が勝ちじゃないかっ! 分かりきったことを言うなっ! と怒られる方もお有りだろうが、そこはそれ、ご容赦(ようしゃ)をいただきたい。^^ だがしかし、である。正解を言うなら、争いに勝利はなく、双方とも負けなのである。例(たとえ)えば、AとBが争ったとしよう。これはミクロの個人対個人でも、またマクロの国対国でもいい訳だが、双方とも勝利はない。これを証明するならば、争う前後を比較すれば、自(おの)ずと浮かび上がってくるだろう。争うことで元々(もともと)あった物や者は消滅、あるいは減じていく。勝って得るものがあるとしても同じだ。この事実は勝ち負けに関係なく、消滅、あるいは減じていくのである。一端、消滅したり減じた物や者は、二度と元(もと)に戻(もど)すことは出来ない。ということは、勝ったとしても負けたとしても…ということに他ならない。^^ それでも人は勝つことに拘(こだわ)り、修羅じみるのだから困ったものだ。^^
 とある町の観光地で、ひょんなことがきっかけで、旅行で訪れた親子ずれの二人の幼児同士が争いを始めた。最初は単なる口争いだったものが、次第にエスカレートし、掴(つか)み合いの喧嘩(けんか)になり始めたから、さあ、大変! 双方の親は必死に自分の子供を止めに入った。ところが、相手の親に謝(あやま)ったその親同士が、ひょんなことがきっかけで、また争いを始めてしまったのだ。双方の親は団体客だったから、双方のグループには別の親子ずれが何組かいた。それらの親子ずれが止めに入ったのはいいが、また、ひょんなことで争いを始めてしまったから、さあ、大変! 皆さんが観戦でよく見られるプロ野球で審判に不平を言いに近寄った監督が激高(げきこう)し、そこへ双方の別の選手達が駆け寄って大乱闘になりかける・・といった構図だ。^^ 双方の旅行社の添乗(てんじょう)員は堪(たま)ったものではない。次の観光地への出発予定が大幅に遅れてしまったからである。旅行のやり直しは出来ない。そのことがきっかけで、暴動が勃発(ぼっぱつ)し、やがて世界大戦へと拡大していった・・ということはなく、^^ それでもなんとか双方の和解が成立し、多少の時間は遅れたものの事なきを得た。
 このように最悪、争いとなった場合でも、失うものが少ないうちに早めにやめた方が双方ともにいい・・という結論が導(みちび)ける。勝ったとして、それでも戻せないものもある。^^

        
                  完

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2020年1月 6日 (月)

それでもユーモア短編集 (85)もの好き

 他人がやることを僻目(ひがめ)で見て、口にする言葉が、もの好きという言葉である。僻目とは、自分ならそうはしない…という気持を冷(さ)めた目で見たときに使う言葉だが、『おたくも、もの好きですなぁ~』などと、口にして使われる。言われた方は、苦(にが)笑いしながら「…」と黙っているだろうが、それでも内心は、『大きなお世話だっ!』くらいの気分で怒れるに違いない。^^
 朝から、とある会場で一円玉彫刻会と名売った趣味の集いが催(もよお)されている。この同好会に出席する場合、会員は自宅で一点、創作した作品を持ち寄り、会場でもう一作品、懇談しながら創作する・・という会則になっていた。会員になるには会員一人の紹介が必要だったが、会費などは一切、不用だった。というのも、主催者の会長が、とある大財閥のご隠居・・ということもあった。むろん、会の後は懇親会をかねた食事会、飲み会となっていた。
「おおっ! これは大作ですなっ!」
 一人の会員が、となりの会員の作品を心では、『もの好きだなぁ~』と思いながら、それでも笑って褒(ほ)め称(たた)えた。
「いやぁ~、さほどのものでも…」
 言われた会員は、『もの好きだなぁ~と思ってるくせに…』と思いながら、それでも紋切り型で謙遜(けんそん)した。
 このように、もの好き・・という言葉は、直接、口にすれば角(かど)が立つから、心で思うもののようだ。^^

        
                  完

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2020年1月 5日 (日)

それでもユーモア短編集 (84)やる前か、やった後(あと)か?

 朝、物事をやり始めたとしよう。そしてその作業は順調に進んでいく。だが、もう少しというところで昼となる‎。ここで、物事の出来は二つの違いを見せることになる。一つは、そのまま作業が継続されることで物事が無事に完成、終了し、昼食、あるいは休憩になるという形だ。この場合は、事後(じご)の昼食、あるいは休憩である。もう一つは、一端(いったん)、作業は中断され、昼食、あるいは休憩になる形だ。この場合だと物事は完成、あるいは終了しておらず、継続作業をする必要が生じる。要は、物事の完成や終了が、やる前か、やった後(あと)か? ということに他(ほか)ならない。この二つの違いは、同じ完成や終了した場合でも、その後に大きな差異を見せることになる。東海道を進んで、スンナリと関ヶ原の戦いに勝つか、あるいは中山道を進んで梃子摺(てこず)った挙句(あげく)、関ヶ原の戦いに間に合わなくなるか・・の違いによく似ている。^^
 とある公民館で日曜大工教室が開かれている。今週の課題は本棚だ。
「そろそろ、昼ですなぁ~!」
「ですなっ!」
 ほぼ完成が近づいたところで、昼を告げるチャイムが高らかに鳴り響いた。
「ああ、もう少しなんですが…、どれどれ、昼にしますか?」
「いや、私は仕上げてからにします」
「ああ、そうですか。では、お先に…」
 一人は完成する前に昼食に出かけた。そしてもう一人は、最後の完成まで続けた。そこへ教室の講師が現れた。
「ほう! 完成しましたか。いい出来ですねっ! 作品に手抜きがありませんっ!」
「いやぁ~、お恥ずかしい。もう一人の方より、かなり下手(へた)な出来で…」
「いえ、下手でもいいんですよ。手抜きがあれば、作品としての価値は、まったくありませんっ!」
「お昼になってもですか?」
「はい、それでも、です!」
 講師は、はっきりと言い切った。
 やる前か、やった後か? ということになれば、やはり、やった後がいいようだ。^^

         
                  完

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2020年1月 4日 (土)

それでもユーモア短編集 (83)出遅れたとき

 誰だって、いつも物事がスンナリといく訳ではない。決まった時間に間に合うよう出ようとしていたところ、思わぬ誤算で出遅れたとき、さて、どうするか? が問題となる。出遅れたとはいえ、それでもなんとか間に合わせなければならないのだ。ゆったりと将棋や囲碁の棋士のように長考しているゆとりはない。となれば、瞬間の判断が正確か、適当かどうか? ということになる。判断して、即、行動に移さなければ当然、間に合わない。しかし、いつものゆとりはない。急ぐか、端折(はしょ)るか、あるいは別の方法でスンナリいく術(すべ)を探(さぐ)るかの三通りが思い描かれる。まあ、いいか…と諦(あきら)めるのが一番、楽なのだが…。^^
 とあるバス停前である。いっこう来ないバスに痺(しび)れを切らせた客がブツクサ言い始めた。
「来ませんなっ! ったくっ! 今日に限って!!」
「ですなっ! 弱りました…。私、今日は約束事があるんですよっ!」
「いや、私もです。何かのトラブルですかな?」
 そこへ、もう一人の男が話に加わり、解説するかのように落ち着いた声で語り出した。
「バスは定刻に走るのが決めですから、出遅れる・・ということは、まず考えられんのです。となれば、なにかの事故とか故障とかでしょうなっ!」
「なるほど…」「なるほど…」
 二人の男は諭(さと)されたように異口同音(いくどうおん)に頷(うなず)き、納得した。
 数十分して、いつものバスがスゥ~っとバス停へ止まった。そして、運転手がバタバタッ! と降りてきた。
「すみませんっ! 私、ついウトウトしまして、出遅れましたっ! すみませんっ!」
「…」
 解説した男は予想がハズれ、沈黙した。
「いいですよっ! それでも来てくれたんだから…」
「それよか、早く出してくださいっ!」
「あっ! そうでした。すみません…」
 バスは定刻よりかなり出遅れたが、それでもコトもなく動き出した。
 このように、出遅れたときは謝(あやま)るに限る。^^

           
                 完

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2020年1月 3日 (金)

それでもユーモア短編集 (82)変わる

 どんなものでも変化をする。変わる訳だ。^^ 茶碗や置物など・・ちっとも変わらんじゃないかっ! とおっしゃる方もおられるだろうが、分子という目に見えないミクロの世界では絶えず変わっているのだ。ただその変わる現象が余りにも微細なため、私達の目には少しも変化していないように映るだけなのである。人だって究極のところ分子の集合体だから周囲の分子の影響を受けて劣化する。劣化しないためには変わることから保守や防備をしなければならない。ペトペト、パタパタと顔へ化粧品を塗りたくることで劣化から保守と防備をされる奥様方や女性の方々。ご苦労なことだと申さざるを得ない。^^ その保たれた美貌(びぼう)で男性陣はメロメロに骨抜きにされ、挙句(あげく)の果てには精力を吸い取られて弱るのだから困ったものだ。ただ、この変わる事態は自業自得(じごうじとく)だろう。^^
 とあるデパートの化粧品売り場である。一人の奥様風の女性が化粧品を買おうとしている。
「こちらなど、いかがでございましょう。お綺麗になられますわよ」
 化粧品売り場の女店員は、『なにつけたってムダよっ!』と心で思いながら、それでも真逆(まぎゃく)の言葉を吐(は)いた。
「あら、そおう? 変わるかしらっ!?」
「ええっ! お変わりになりますよっ!」
 全然、変わらないわよっ! …と思いながら、それでも、また真逆の言葉を女店員は吐いた。
 このように、思っていることすら口に出すと変わるのだから、それでも…と意固地にならない方がいいようだ。^^

        
                  完

 

 

 

 

 

 

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2020年1月 2日 (木)

それでもユーモア短編集 (81)維持(いじ)

 拡大や発展は誰しも望むが、現状を維持(いじ)することも大事だ。維持・・要はキープすることだが、現状を長期間、維持したり、将来的に安定させることが最(もっと)も重要だということを私達は、つい見逃(のが)しがちになる。個人なら健康や体力、企業なら安定した存続、自然だと保護などになるだろう。こうして冷静に考えればそのことに気づかされるが、それでも流動する社会の中では、どうしても拡大や発展を意識する。そうすることで維持できるから・・という意識が自(おの)ずとそうさせるのだ。だが、その発想は甘い。^^
 二人のご隠居が、春の陽気に誘われ、公園でのんびりと語らっている。
「会社はどうなりました?」
「ああ、私とこですか。この前、会長に出会ったとき聞いたんですが、少し危(あや)ういようです」
「ほう! それはいけませんな。お宅の時代は安定発展されてましたが…」
「はあ、まあ…。私は大きくならずとも中長期的に存続することが大事! という経営思考でしたから…」
「いやいや、それが大事です。大きくなってもポシャればそれでお終(しま)いですから」
「そう! 肥え太ってチ~~ン! はいただけません…」
 二人のご隠居は野菜ジュースを飲みながら、のどかに笑いあった。
 このように、それでも! と望まず、維持+α[アルファ]くらいの思考がいい訳だ。^^

                             完

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2020年1月 1日 (水)

それでもユーモア短編集 (80)リバウンド

 最近は体重の増加を減らそう…と、しなくてもいいのに減量[ダイエット]する人が増えている。マスコミが生活習慣病を避けるため・・とかなんとか、ひっきりなしに捲(まく)し立てるということもあるが、本人、特に女性は容姿を美しく見せよう…という傾向が強く、お世辞にも綺麗とは言えない女性が、「私、ダイエットしてリバウンドしちゃったの…」とかなんとか言うのを聞くにつけ、勝手にリバウンドすればっ! と思いながらも言えず、笑って、「そうなんだ…」と返さねばならなら苦痛は並大抵(なみたいてい)のものではないだろう。^^ それでも当の本人は、またダイエットしようとするのだから困りものだ。「したって同じよっ!」 とも言えず、『リバウンドくらい、すぐ戻(もど)せるわよっ!』と、心にもない言葉を口にせねばならない立場も辛(つら)いものだろう。^^
 とある普通の奥さん二人の会話である。
「あら、嫌だわっ! リバウンドしたなんて、ちっとも見えないわっ!」
「そうお? うちの主人なんて、『お前、それでダイエットしたのかっ!』って、こうよっ! やってらんないわよっ!」
 話し手の奥さんは息巻いた。
「そんな酷(ひど)いことを?」
 聞き手の奥さんは、『確かに…。ご主人がそう言うのも無理ないわね…』と冷(さ)めて思いながら、そうとも言えず愛想笑いして話を流した。
「そうなのよっ! こうなったら10Kg落としてやるっ!」
「見かえしてやんなさいよっ!」
 聞き手の奥さんは、『無理無理っ! 絶対、無理っ!! またリバウンドするから、やめた方が…』と、また冷めて思ったが、そうとも言えず、ふたたび真逆(まぎゃく)の言葉を発して援護(えんご)した。
 このように、リバウンドした分をそれでも戻(もど)す話をすれば、内心で否定されるから、やめた方がいい。^^

         
                  完

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