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2020年6月

2020年6月30日 (火)

楽しいユーモア短編集 (61)前後(ぜんご)

 楽しい物事も、その前後(ぜんご)で気分が大きく変る。当然といえば当然の話だが、これから…というときは、ウキウキと楽しい。例えば、旅に出る場合だと、前の日は心が弾(はず)んで楽しいものだが、帰った後(あと)ともなれば、疲れた苦痛だけが残り、楽しい気分は旅の途中で、どこかへ置き忘れているのだ。これは何も旅の行楽に限ったことではなく、食欲、色欲、出世欲、物欲・・など、総ての欲に通じる現象なのである。達成される前はワクワク、ウキウキと楽しい訳で、達成された後は、なんだ…くらいに萎(しぼ)んで、ちっとも楽しいとは思えない。それでも楽しいと思えるお方は相当、欲深(よくぶか)な好き者といえるだろう。^^
 明日、宝くじの結果が分かる前夜である。一攫千金(いっかくせんきん)を夢見る父親は、いつもと違い、どういう訳か落ち着かない。
「あら? お父さん、もう寝るの? 随分、早いわね…」
「んっ? ああ、疲れたからな…」
 娘に訊(たず)ねられ、父親は思わずそう返した。宝くじが気になってな・・などとは、娘にとても言えなかったからだ。ところが、その次の夜は、いつもどおりの時間に戻(もど)っていた。娘は、またダメだったんだわ…とは分かっていたが、知らない態(てい)で黙っていた。ところが、である。なんと父親の宝くじは当たっていたのである。父親は必死の努力で平静を装(よそお)い、楽しい気分をひた隠して娘に気づかれまいとしたのだ。
 このように、物事が前後で変化したかどうかまでは、外見上、必ずしも分からないが、変化は少なからずしている訳だ。後が楽しいことを祈ろう。^^

                           完

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2020年6月29日 (月)

楽しいユーモア短編集 (60)人は人、自分は自分

 人は人、自分は自分と、━ 我が人生、我が道を行く ━ の心意気(こころいき)で世に処(しょ)せば、これほど楽しいことはない。人がどう思おうと、風に柳と吹き流せば、傍目(はため)も、まったく煩(わずら)わしくなくなる。自分の考えに他人を巻き込んだり、傍目の大迷惑、法律に触れる内容でさえなければ、世の中をどう生きようと他人に兎(と)や角(かく)、言われる筋合いはない訳だ。また、違和感を感じて兎や角、言う人は、逆に兎や角、言われる性質を有する問題ある人物だと言える。要するに、大きなお世話っ! ということに他ならない。^^ その最(さい)たる例は、集団や組織が個人を従わせる義務を除(のぞ)いた強制力だ。個人は、そうしたくないのに、そうさせられる訳である。^^
 とあるテレビ番組で二人の評論家が討論を戦わせている。
「そりゃ、違うでしょ!!」
「あなた、そう言いますけどもね。違う! って断言できますかっ!」
「断言できるから、違う! って言ってるんでしょうがっ!」
「それは、あなたの偏見(へんけん)だっ!」
「偏見かなんだか知らないけどねっ! あなたがなんと言おうと、違うものは違うんだっ!!」
「あなたの考え方は、自分は自分の考え方だっ!!」
「ああ、そうだっ! 人は人! その考え方の、どこがいけないっ!!」
「いけないもなにも、ポン酢(ず)はポン酢、酢醤油(すじょうゆ)は酢醤油だろっ!!」
 そのとき、二人を見かねたアナウンサーが口を挟(はさ)んだ。
「美味(おい)しけりゃ、どっちだっていいんじゃないでしょうか…」
「…」「…」
 聞いた二人の評論家は、たちまち沈黙した。
 人は人、自分は自分・・の考え方は、やはり他人に押しつけてはいけない美味しく楽しい権利なのである。^^

                           完

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2020年6月28日 (日)

楽しいユーモア短編集 (59) いやいやいや…

 楽しい気分に浸(ひた)っているとき、「いやいやいや…」と苦言(くげん)を呈(てい)されれば、誰だって楽しい気分どころの話ではなくなる。要は、イチャモン[言いがかり]をつけられる・・という事態である。そこで相手に、「いやいやいや…」と言い返すか、あるいは、『それも一理あるな…』と考え直して、「ああ、そうですか…」と矛(ほこ)を収(おさ)める[矛を鞘(さや)へ収めて戦わない態度を示す]かの二手(ふたて)に態度は分かたれる。^^
 とある会場で、とある候補者の立会い演説会が開かれている。選挙対策として事前に声をかけられ会場に詰めかけた桜の聴衆が半数ばかりいるから、ところどころに空席がある点を考えれば、そんなに盛況とも言えない。^^ だが、候補者は自信に満ち溢(あふ)れた態度で、いやいやいや…と、不入りぎみを、まったく気にしていない。本人が思っていたより入場者が多かったからだ。少ししか入らないだろう…と、候補者が諦(あきら)めの想定をしていた以上の入りだった・・ということである。
「先生! そろそろ、お時間でございますっ!」
「ああ、そうかね…」
 徐(おもむろ)にそう返すと、候補者はゆったりと応接セットから立ち上がり、控え室を出た。そして、準備された壇上中央へとゆっくり進み、聴衆に向けて深いお辞儀をした。
「えぇ~~っ! お足元のお悪い中、多くの方々にお運びを賜(たまわ)りまして、厚く御礼(おんれい)を申し上げますっ!!」
 マイクから流れる拡声(かくせい)された候補者の声に、聴衆は、今日はいい天気だったがなぁ~…という訝(いぶか)しげな視線で壇上の候補者を眺(なが)めた。しかし、候補者は事前に準備した桜を除く予想外の入りに、ただただ喜びいっぱいで、テンションを上げていた。まあ、それだけ単純だった・・といえる。^^ だが、こんな自信がある場合のいやいやいや…は、予想外の結果を生むものだ。候補者は見事に当選を果たし、楽しい気分に浸れたのである。
 いやいやいや…は、自己を確立する要素、すなわち独自性[アイデンティティー]で、実現の原動力となるのである。ただ、意固地(いこじ)や頑固(がんこ)は、いただけない。^^

                           完

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2020年6月27日 (土)

楽しいユーモア短編集 (58)どうでもいい

 どうでもいい…と口にして物事から抜け出せば、心は解き放たれ、楽しい気分となる。だが、世の中の悪い柵(しがらみ)は、そうはさせまいっ! とアノ手コノ手で追いかけてくる。そうしたとき、馬鹿かっ、お前はっ!! という気分で開き直り、どうでもいいじゃんっ! と抜け出せば、それはそれで新しい未来も開けてくるというものだ。旧態依然とした柵は継続することで安定してはいるが、先々(さきざき)の発展系がまったくない。なければ、未来は開けない! と、まあ話はこうなる訳だ。^^ このように考えれば、どうでもいいは、その実、どうでもいいことに前向きでアグレッシブな発想なのである。どうでもいい…と考えれば、心の中に自分のゆとり領域が出来て楽しい上に、思わぬ発展系の発想も芽生える・・ということ他ならない。
 駅を出た二人の男が歩道で立ち止まり、何やら言い争っている。
「そんなこと、どうでもいいじゃないかっ! 時間が余りゃ、寄ればいい・・くらいの話だろうがっ!」
「馬鹿を言うなっ! どうでもいい訳がなかろっ! 度忘れの天麩羅うどんを食うために、態々(わざわざ)来たんじゃないかっ! 」
「お前はそうかも知れんが、俺はホニャララ座の芝居見物に態々、来たんだっ!」
「ホニャララ座! ホニャララ座の芝居なんか、どうでもいい。ホニャララなだけだっ!」
「ほう!! お前は度忘れの天麩羅うどんを食うのが、そんなに大事かっ!?」
「ああ、大事だっ! 芝居、観たって腹は膨(ふく)れんっ!」
「馬鹿野郎! アソコの幕の内弁当が美味(うま)いんだっ!! 十分、腹は膨れる。お前、知らんのかっ!!」
「ホニャララ座の幕の内弁当? …そんなの、あったか?」
「あったあったっ! 芝居なんかどうでもいいんだっ!」
「態々、芝居見物に来たんだろ?」
「幕の内を食うためだっ!」
「…なら、そうしてみるか」
 二人はホニャララ座の方へと歩き出した。
 人間にとって食べることは、楽しいこと以上にどうでもよくはないのである。^^

                           完

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2020年6月26日 (金)

楽しいユーモア短編集 (57)あの日

 ふと、脳裏(のうり)に過(よ)ぎるのが、あの日の楽しい記憶である。正確には楽しかった記憶なのだが、思い出したときは今のように感じるから楽しい記憶ということになる。現実の時は移ろって、すでにあの日の残像どおりではないにしろ、やはり思い出したあの日は楽しい訳だ。楽しい記憶を急に思い出した場合は思わず笑えるから、周囲の人は、妙な人だなぁ~…と、違和感を覚えることだろう。もちろん、悪い出来事が生じたあの日もあるだろうが、ふと、過ぎるのは、やはり、いい記憶の残るあの日が多いようだ。例(たと)えば、あの日、ホニャララで食った鰻(うなぎ)は美味(うま)かった…などという実益があった日の場合である。^^
 とある飛行中の飛行機内の会話である。
「あの日の墜落事故、ここの飛行機ざまぁ~すでしょ! 私、嫌だわっ!」
 前席の搭乗客が漏(も)らしたひと言(こと)に、後部座席の男は、『なら、乗らなきゃいいだろっ!』と、イラッ! とした。
「まあまあ、奥様ぁ~。大丈夫でござぁ~ますわよ、ホホホ…あの日はあの日っ!」
 隣の前席の搭乗客が心配する搭乗客を慰(なぐさ)めた。
『なにが、ホホホ…だっ!! 落ちて死ねっ!』
 後部座席の男は、ムカッ! とした。イラッ! にムカッ! だから、男にとっては少しも楽しい気分ではなかった。しばらくして、『おっと!! 俺も死ぬのか…。危(あぶ)ねぇ~危ねぇ~』と、急いで全否定した。そして、またしばらくして、『そういや、あの日は俺の結婚式だったんだったなっ!!』
 男は俄(にわ)かにニヤニヤし出した。通りかかったキャビンアテンダント[旧呼称 スチュワデース]が、『怒ったりニヤニヤしたり、変な人ねっ!』と訝(いぶか)しげに男を見遣(みや)り、通り過ぎた。
 あの日は、やはり楽しい想い出に限る。^^

                           完

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2020年6月25日 (木)

楽しいユーモア短編集 (56)寒暖(かんだん)

 暑くもなく、かといって寒くもなければ、人は快適になる。快適になれば、当然、楽しい気分になる。楽しい気分を損(そこ)ねるこの寒暖(かんだん)というやつは、人によって感じ方が違うから、実に厄介(やっかい)なものだ。^^
 大雨で、体育館に非難した、とある町の住民同士が何やら揉(も)めている。
「だからっ!! 私は寒いんだよっ! もう少し、空調温度を上げてくれっ!」
「何、言ってんだっ! 私は暑いんだっ! 下げてくれっ!」
「なに言ってるっ! これで寒くないって? あんた、それでも人間かっ!」
「ああ! かなり前から人間はやってるっ! あんたより長いんじゃないかっ!!」
「まあまあ、お二方(ふたかた)!」
 二人を見かねた非難場所の責任者が二人に割って入った。「だったら、あんたは、どうなんだっ!?」
「そうだっ!」
 揉めていた二人が、俄(にわ)かにタッグを組んで、責任者を責め始めた。
「わ、私は暑くも寒くもないです。これくらいがいい…」
「…」「…」
 揉めごとは、たちまち立ち消えた。
 楽しい気分が失(う)せる寒暖は、個人の場合だといいが、集団の中では主張すべきでない・・という一例のお話だ。^^

                             完

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2020年6月24日 (水)

楽しいユーモア短編集 (55)今日という日

 今日という日は一生に一度しかない。一度しかないと分かっていても、長い時の経過の中で人は、ついつい忘れてしまいがちだ。その程度の出来が悪いのが人だといえる。^^ だから! という訳ではないが、その一生に一度しかない一日を有効に、かつ大切に過ごそう・・などと言うつもりは、禿(は)げ頭ではないから、毛頭ない。^^ 自分の人生なのだから、好き勝手に生きればいい訳だ。むろん、これにはその社会が許すルール[法律]の範囲内で・・という条件は付く訳だが…。
二人の老人が日向(ひなた)ぼっこをしながら、語り合っている。
「おたく…確か、昨日(きのう)も、ここにいらっしゃいましたな?」
「えっ? ええ、いましたが、それがなにか?」
「いや、それならそれでいいんです。ただ…」
「ただ?」
「言ってよろしいですかな?」
「はあ、どうぞ…」
「お互い、残り少ない人生です。今日という日を大事に生きなきゃ!」
「はあ、さよですな…」
 言われた老人は、ひとまず聞いたが、まだこれから・・と思ってる矢先にっ! と、次の瞬間、内心で反発した。
「ですから、今日も昨日もここにいるっ! というのは…」
「はあ、気をつけます…」
 楽しい気分が消え、いつの間にか腹が立ち始めた老人だったが、やはりグッ! と我慢して話を合わせた。
「それじゃ、お先に…」
 と、散々、好き勝手に捲(ま)くし立てた老人は、スクッ! と立ち上がると歩き去った。聞かされていた老人は、今日という日は、人に意見するこっちゃないぞっ! と、また思った。^^
 今日という日は人それぞれだが、他人が楽しくない意見をすることではないのは確かなようだ。^^

                            完

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2020年6月23日 (火)

楽しいユーモア短編集 (54)遊び

 子供のときから誰だって遊びの時間は楽しいものだ。形(かたち)はどうであれ、他から束縛(そくばく)を受けない自分の思いどおりになる楽しい時間なのである。単に遊ぶのもよし、趣味に現(うつつ)を抜かすのもよし、何でもありが遊びだ。子供の頃は遊びだけで生きられたものが、さすがに大きくなると、食べるお金を稼(かせ)がねば生活が出来ず、空腹で遊びさえ、ままならなくなる。まあこれは、誰しも仕方がないところだが…。^^
 とある場末(ばすえ)の酒場である。二人泣き上戸(じょうご)の男が、店主が出した小皿(こざら)の肴(さかな)を摘(つま)みながらチビリチビリと熱燗(あつかん)でやっている。かなり酩酊(めいてい)しているのか、二人とも赤ら顔だ。
「あんたねっ! 分かってくれますかっ! ぅぅぅ…」
「ええええ、分かりますともっ! これが分からずにいられますかっ! てんだっ!! ぅぅぅ…」
「ぅぅぅ…なにがっ?」
「遊びっしょ! 遊びっ!! ぅぅぅ…」
「そうそう! 遊び、遊びっ!! ぅぅぅ…。なんのっ?」
「なんのって、楽しい遊びっしょ! ぅぅぅ…」
「そうそう!! その楽しい遊びっ! ぅぅぅ…最近、ないんだなっ、これがっ! あんたねっ! 分かってくれますかっ! ぅぅぅ…」
「ええええ、分かりますともっ! これが分からずにいられますかっ! てんだっ!! ぅぅぅ…」
「ぅぅぅ…なにがっ?」
「遊びっしょ! 遊びっ!! ぅぅぅ…」
「そうそう! 遊び、遊びっ!! ぅぅぅ…。なんのっ?」
「なんのって、楽しい遊びっしょ! ぅぅぅ…」
「そうそう!! その楽しい遊びっ! ぅぅぅ…最近、ないんだなっ、これがっ! あんたねっ! 分かってくれますかっ! ぅぅぅ…」
「ええええ、分かりますともっ! これが分からずにいられますかっ! てんだっ!! ぅぅぅ…」
 この会話が三度(みたび)、繰り返されたあと、それまで黙っていた店主がボソッと言った。
「お客さん、そろそろ店、閉めますんで、…外で遊んで下さいましなっ!」
 二人は得心(とくしん)して頷(うなず)くと、お代(だい)を置いて店を出た。
 このように、遊びは楽しいだけで、本人には遊んでいるという自覚がない。^^

                          完

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2020年6月22日 (月)

楽しいユーモア短編集 (53)思いどおり

 なにが楽しいかって? そりゃ、この世の総(すべ)てが自分の思いどおりに動くことだろう。思ったことが、そのとおりになる! と言うことだ。もちろん、そんな上手(うま)い話が世の中にあるべくもなく、あったとすれば、それは大事(おおごと)だ。軍事的にはファッショと呼ばれる独裁がある。かつて世界は悲惨な憂き目を見た経験を有する。たとえそれが間違いないことでも、思いどおりは危険だ。やはり、そこはそれ、実力のある天下のご意見番が睨(にら)みを利(き)かし、物申すではなく、思いどおりに進む独断と偏見(へんけん)を阻止(そし)しなければならない。私ゃ、美味(おい)しい、きつねうどんを食べられりゃ、それでいい…と思う人には通じない話だが…。^^
 慰労を兼(か)ねた会社の宴会がたけなわの、とある料亭である。
「へへへ…でしょ! 僕が進めたプロジェクトは、いつも思いどおりになるんですよぉ~~っ!!」
「ああ、そうだ、そうだ! 君には参ったよ、ははは…」
「今回もねっ! なんか僕、そんな気がしたんで、プロジェクトを立ち上げたんですっ! ウィッ! ふふふ…自慢する訳じゃないですがねぇ~~っ! ウィッ! ねっ! ズボシだっ!!」
「そう! そうだったね…。まあ、一杯!!」
「ウィッ! いやいや! いけませんっ! これ以上、思いどおりに飲めばっ! ウィッ! 僕は…」
 そう言うと、男は畳の真ん中でバタンッ、キュゥ~~! っと倒れ、大の字になって高鼾(たかいびき)を掻(か)き始めた。
「ははは…思いどおりになってるじゃないかっ!」
 他の社員達は、大笑いで大の字の男を肴(さかな)に、宴会を続けた。
 こんないい意味で楽しい思いどおりも、あるにはあるというお話である。^^

                          完

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2020年6月21日 (日)

楽しいユーモア短編集 (52)程度

 楽しいことも、あり過ぎれば、楽しいというより負担となって、返って楽しい気分が遠退(とおの)く。これは妙な話だが、事実、そうなのだから仕方がない。^^ その逆で、楽しいことがなければ、当然、楽しい訳がない。最(もっと)も楽しいのは、あり過ぎず、かといってないということもなく、ほんの少しある・・という状態だ。要は、程度ということだ。
 とある裕福な家庭の一齣(ひとこま)である。
「いや、その日はゴルフ・コンペだっ! とてもラスベガスで遊んじゃいられない。ははは…」
 大財閥の射張(いばる)が欠伸(あくび)をしながら応接セットから立った。年老いた執事(しつじ)の的矢(まとや)は、ゴルフだって遊びでしょ! …とは思ったが、そんなことはとても言えず、笑って流した。
「少し動き疲れたよ。楽しいことがあり過ぎるのも程度ものだなっ!」
「はい、さようで…」
 的矢は、贅沢(ぜいたく)言ってりゃ世話がないっ! …と少し怒れてきたが、やはりそんなことは、とても言えず、ふたたび愛想笑いをして暈(ぼか)した。そこへ令嬢(れいじょう)の真弓(まゆみ)が現れた。
「お父様、買って下さると言ってらした一億のダイヤのネックレス、いつになりますの?」
「ああ、アレか…。アレならいつでもいいぞ。今度、私のスケジュールが開いた時にでも出かけようか」
「はい! 楽しみにしておりますわっ!」
聞いていた的矢は、私ら1万程度だっ! …と、少し羨(うらや)みが出た。
「お父様、アレ、私に似合うかしら?」
「ああ、お前によく似合ってるよ!」
 的矢は、似合ってるっ? 馬鹿も休み休みに…。程度程度、顔の程度! 豚に真珠!! ったくっ! と、完全に怒れたが、もちろんそんなことは言える訳もなく、笑顔で合わせるのが関の山だった。
 本人は楽しいのだろうが、程度が合わないと周囲の者は、少しも楽しくないのである。^^

                           完

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2020年6月20日 (土)

楽しいユーモア短編集 (51)夢

 夢という言葉は、いろいろな意味で使われる。
「最近は、ちっとも夢を見ないよ…」
「ははは…それだけ疲れてんだよっ!」
 と言われる場合の夢。
「大きくなったらホニャララになりたい夢があるんだっ!」
「…そりゃ、無理だろ!」
 と一蹴(いっしゅう)され、ギャフン! とする夢。^^
「ははは…飽くまで、夢の世界の話さっ!」
「そうなりゃ、いいけどな…」
 などと使われる、ただの空想の夢。このように、夢はいろいろな意味で使われる。概(がい)して言えることは、夢で終って欲しくないっ! と誰しもが心のどこかで思うことだろう。夢を深追いせず、夢のままの方がよい場合だって結構ある。その辺(あた)りは、演歌の歌詞にも登場し、ヒット曲にもなっている。^^
 とある小学校の六年の教室である。
「鼻川(はなかわ)君、君の夢はなんだっ!」
「先生! 僕は演歌歌手になるんですっ!」
「演歌歌手! ははは…そりゃ、レトロだなっ! …」
 とまでは言った担任の耳岸(みみぎし)だったが、途中で声を小さくして暈(ぼか)した。『無理だろっ、お前。顔がいけてないっ!』とは思ったが、夢を壊(こわ)すのも…とも思ったからだ。『ブサカワで人気という犬もいるしな…』と、耳岸は鼻川の言い分を理解することにした。
「先生! なれますかっ!」
「んっ? そりゃまあ、努力と運、次第だな。ははは…どうだっ! 一節(ひとふし)、歌ってみるかっ!」
「はいっ!!」
 鼻川はスクッ! と椅子から立つと、直立不動で、とある演歌歌手の有名曲をガナり出した。歌い出したのではなく、ガナり出したのである。それだけ歌が下手(へた)だった・・ということだ。
「♪どうたらぁ~~こうたらぁぁ~~♪」
「ははは…もう、いいっ! こりゃ、いけるぞっ!」
 耳岸は真逆(まぎゃく)を言った。
「でしょ!!」
「ああ…」
 頷(うなず)いた耳岸は、『世渡り次第、ということもあるしな…』と思い返した。ただ、他の生徒達は、誰もが、『こりゃ、ダメだっ!』と思った。しかし、当の本人の鼻川は楽しかった。
 夢は見ているうちが花で、楽しい・・と言えるだろう。^^

                         完

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2020年6月19日 (金)

楽しいユーモア短編集 (50)あとから…と、やってから…

 物事を考えたりやっているとき、丁度(ちょうど)、昼どきになったとしよう。当然、空腹感を本人は感じている。そこで取られる態度には二通りがある。一つは、『さてっ! 昼にするか…』と、切りをつけて考えている内容や作業を中断し、あっさり、『あとから…』と土俵を割るタイプだ。もう一つは、『やってから…』と、ハングリー精神を剥(む)き出しにしてやり続けるタイプである。前者の場合、空腹感をすぐ無くせるから当然、身体(からだ)は快適になる。だがその反面、心には、まだ遣(や)り残しがある…という不消化感があり、快適ではない。一方、やり続けるタイプは、身体の生理的要求を撥(は)ねつけているから、空腹感に苛(さいな)まれ、ちっとも快適ではない。だが逆に、心は考えを纏(まと)めた、やり遂(と)げたという達成感に満ち溢(あふ)れているから、大いに快適で楽しい気分なのだ。どちらが正解、不正解ということではないが、二通りがある・・ということである。『いや! 自分は、食べながらコトを済ますから、関係ないやっ!』というお方は、ご勝手に、どうぞっ! …とだけ言っておきたい。^^
  とある町役場である。
「羽子板(はごいた)さんっ! もう、昼ですよっ!」
 仕事に切りをつけ、ファイルを閉じた撞羽根(つくばね)は、隣のデスクで仕事を続ける羽子板に声をかけた。
「あっ! もう、こんな時間か…。僕はいいですから、どうぞっ!」
「そうですか? それじゃ、お先に…」
 撞羽根としては、『まだ、やってるのか…。僕はもうやったっていうのに…』という少し優越(ゆうえつ)感がある。加えて、『今日の昼は奮発(ふんぱつ)して、鰻福(うなふく)の鰻重にしよう…』などと、たいそう楽しい気分だった。
 羽子板が仕事を終えたのは、それから20分ばかりが過ぎた頃である。
「よしっ! さあ、鰻福へGOっ!!」
 しばらくした鰻福の店内である。口元(くちもと)を楊枝(ようじ)でシーハーシーハーさせながら撞羽根がレジで勘定を済ませていると、羽子板が店へ入ってきた。
「これから、ですかっ! お先です。どうも…」
 撞羽根は、ゆとりの表情で羽子板に擦(す)れ違うと、楽しい気分で店を出た。
 それから、小一時間後の町役場である。
「撞羽根君! 君、間違っとるぞっ!! …おおっ! 羽子板君の方は、これでいい…」
 しばらくして課長席の前に立たされ叱責(しっせき)されていたのは撞羽根だった。羽子板は、『フゥ~~、合っていた。見直した甲斐(かい)があった…よかったよかった!』と、楽しい気分になった。一方、撞羽根の気分は一気にダウンしていた。
 やってから…は、何かにつけてメリットが後(あと)から出る大器晩成(たいきばんせい)タイプのようだ。^^

                           完

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2020年6月18日 (木)

楽しいユーモア短編集 (49)褒(ほ)める

 人を褒(ほ)めれば、褒められた人は悪い気がしない。やがては、いい気分となる。さらに褒められることでいい気分が楽しい気分へと変化する。さらにさらに褒められれば、愉快な気分が訪(おとず)れ、すっかり舞い上がる。これは、褒められることで、自分はそんなによく出来た…などという愚(おろ)かにも馬鹿げた自己暗示がかかるからだといわれる。要は、心理的[メンタル]な問題なのだが、本来、人間は自己顕示欲(じこけんじよく)が強い生き物で、女性は特にその傾向があるそうだ。そんなことないわよっ! 取り消しなさいっ!! と大いにご立腹(りっぷく)される女性の方々もおられると思うから、平(ひら)にご容赦(ようしゃ)をお願いしたい。んっ、もう! 美味(おい)しいお食事券でもお付けしちゃおうっ!! ^^
 新装開店した、大都会のとある高級化粧品店である。陳列ケースには高価な化粧品の数々が並び、数人の女性客が塗らなきゃ損(そん)のように試供品を塗りたくっている。
「奥さま、よくお似合いですわぁ~~」
 婦人を褒めることで、女性店員は買ってもらえる…と、先を見越した、褒める商法である。内心は、『目玉焼きにした殻(から)の白身(しろみ)でも塗ってりゃいいのよっ!』だから、都会は怖(こわ)い。^^
「そおう? じゃあ、いただこうかしら…。おいくらっ!?」
「¥32,000でございますぅ~。なにぶん、世界で千数百個の限定品でございますので…」
 女性店員は、して、やったり! …の気分を隠し、そう言う。
「あら、そうなの? お安いわねっ! ほほほ…」
 婦人の内心は、高いわっ! …だが、そうとも言えず、お高く留(と)まる。やがて商品を包まれた婦人は、代金を支払い、「お釣りはいらないわっ!」の捨て台詞(ぜりふ)を残し、楚々(そそ)と去る。女性店員の内心は、「無理しちゃって!」である。
 このように、褒める効果は楽しい気分を与え、本心でなくても成功を導く・・という一例のお話である。^^

                           完

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2020年6月17日 (水)

楽しいユーモア短編集 (48)なんとかなるっ!

 そこで責任者やリーダーに求められるのは落ち着きである。なんとかなるっ! と自分に言い聞かせるか、あるいは他の者達にそう口にすることによって、冷静さが維持される訳だ。困ったとき・・特に命にかかわるような場合は尚更(なおさら)だ。こういうときは楽しい相場の話ではない。なんとかなるっ! と、落ち着けば、得てしていい考えが浮かぶものだ。そうなれば、窮地を脱出できることも可能となる。ただ、なんとかなる! はいいが、なんともならない場合も当然、あるから、心しなければならない。^^
 秋の連休に入り、行楽の山登りに出かけたのはいいが、地図[マップ]にない二手(ふたて)の分かれ道に出食わし、間違った道を選んだばかりに、迷ってしまった数人のグループのお話である。
 一行が進むに従い、道は益々(ますます)、狭くなっていった。
「リーダー! ほんとに大丈夫なんですかっ!!」
「ははは…大丈夫っ! なんとかなるっ!」
 次第にオレンジ色に変化した空を見上げ、不安がるメンバーの一人に、後方からそう訊(たず)ねられたリーダーは、余裕の笑い声で返した。だが、顔は、ちっとも笑ってはいなかった。
『ホホォ~~ホホォ~』
 なんとも不気味(ぶきみ)な声で梟(ふくろう)が泣き始めた。
 そうして道は、ついに獣道(けものみち)のような細さになった。
「戻(もど)ったほうが、よかないですかっ!!」
 ついに、副リーダーが意見を具申(ぐしん)した。
「いや、大丈夫っ! なんとかなるっ! … …いや、なんともならんかっ! よしっ! 戻ろう!!」
 九死に一生を得る・・とは正(まさ)にこのことである。一行は、日没ぎりぎりで下山することが出来た。ゆとりが生まれると、なぜかそれまでの苦が笑え、楽しい気分になる。一行はその夜、宴会で大いに盛り上がった。
 人は窮地に陥ったとき、なんとかなるっ! を起点にして、切り抜けられる妙な生き物・・ということになる。^^

                            完

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2020年6月16日 (火)

楽しいユーモア短編集 (47)温度差

 楽しいと思えることでも、人によって温度差がある。この温度差は気温から派生した言葉のようだが、普通は、熱い寒いを感じるただの温度差の意味だ。この場合は、お風呂のいい湯加減、冬の熱燗(あつかん)のいい燗加減といった人による違いを示す。政治的使われた場合は、二国間の温度差などと言われたりする。片想いで終わる恋愛の温度差だってある。^^ 総じて、温度差がない方が楽しい展開となるケースが多いようだ。
 とある家庭の様子である。
「パパ! 今度の連休はニャゴ高原へ行くでしょ!?」
「んっ? パパ、そんなこと言ったか?」
「言ったわっ! 先週の日曜。もう、忘れたの?」
「あっ、そうか。パパ、そんなこと言ったか…」
 新聞を読んでいた父親は、小学2年の娘にそう訊(たず)ねられ、否定することも出来ず、逃げをうって暈(ぼか)した。
「言ったわよ。行こうねっ!」
「ははは…ああ、行こう、行こう!」
 とは言ったものの、娘と父親の温度差は大きく、父親は余り乗り気ではなかった。逆に娘は大乗り気で、今日にでも行きたい気分がしなくもない。そこへ母親が現れた。
「今度の連休はワン温泉じゃなかったかしら。あなた、確か、そう言ったわよねっ?」
「んっ? そんなこと言ったか?」
「言ったわよっ! 先週の土曜曜。もう、忘れたの?」
「あっ、そうか。俺、そんなこと言ったか…」
「言ったわよ。行くんでしょ!」
「ははは…ああ、行こう、行こう!」
 母親と娘は互いに顔を見合わせ、ダメだ…のジェスチャ ーをした。ジェスチャーどおり、次の連休はニャゴでもワンでもない近くのファミレスで、形ばかりの食事となった。
 温度差があった場合は、よく掻(か)き混ぜないと、楽しい展開には至らない・・という典型的なお話である。^^ 

                             完

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2020年6月15日 (月)

楽しいユーモア短編集 (46)快適

 何の問題も起こらず快適に過ごせれば、それはそれは楽しいことだろう。だが、そんなユートピアのような楽しい場所が私達の暮らす世界にある訳がない。いくら巨万の富を持つ成金者でさえ必ず何らかの苦があり、快適な暮らしを阻害(そがい)されているのである。もちろん、普通の暮らししか出来ないそれ以下の私達は当然、苦だらけで、世の柵(しがらみ)がこれでもかっ! これでもかっ! と、手を変え品を変え、地獄の鬼のように責め苛(さいな)むのである。これは少し言い過ぎかも知れないが…。^^
 とある財閥の豪邸である。中の一室では、財閥の総帥(そうすい)、金有(かねあり)会長が室内ゴルフに余念がない。
「か、会長! 偉(えら)いことですっ!!」
 束(つか)の間(ま)の楽しい時間を害された金有は、まったく面白くない。
「なんだね君はっ! いつもいつも偉いことだらけじゃないかっ!」
「も、申し訳ございません…」
 第一秘書の桶螺(おけら)は、這(は)い蹲(つくば)うように謝(あやま)った。
「でっ! どうだと言うんだっ?」
「実は…アノ話なんですが…」
「楽しい話じゃないんだなっ!」
「いや、それが楽しい話なんですっ!」
「楽しいのか? だったら、ちっとも偉いこっちゃないだろ? 君」
「それが偉いことなんですっ!」
「君の言ってることは、まったく要領を得んっ! 怒るよっ!!」
「実は、総理に要請されていた大統領との話が本決まりにっ!」
「なにっ! 大統領と超一流の寿司屋で寿司を摘(つま)む話かっ! アソコは快適に美味いそうだからなっ!」
「はいっ! なにせ各国の迎賓(げいひん)専門店ですから、美食家の会長でもお入りになれなかった店ですっ!」
「ああ! そりゃ、願ったり叶(かな)ったりの、いい話じゃないかっ! 君もようやく、秘書室長に昇格、濃厚だなっ! わっはっはっはっ!」
 楽しい気分が戻(もど)り、金有は豪快に笑い飛ばした。
 財閥の総帥の快適で楽しいひと時は、なかなか入れない寿司屋にあったようだ。^^

                           完

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2020年6月14日 (日)

楽しいユーモア短編集 (45)もう、いいでしょ!

 物事も、度が過ぎれば、「もう、いいでしょ!」と、切れられることになり、楽しい雰囲気も一瞬にして潰(つい)える。^^ 要は、物事をする場合、ほどほどが大事・・ということだ。━ 及ばざるは 過ぎたるに勝(まさ)れリ ━ と、某(ぼう)時代の超有名な戦国武将が言ったとか言わなかったとかいう名言(めいげん)である。私はその時代に生きていた記憶がないから、よくは分からない。^^
 とある火事直後の現場である。出火原因に不審(ふしん)な点があり、警察の捜査が行われている。
「どうも、怪(おか)しいですねぇ~警部? この場所から出火というのはっ!」
「そうだな…。昼の天麩羅(てんぷら)うどんの蒲鉾(かまぼこ)が、なぜ一枚だったのかが分からん! いつもは二枚だ。そうだろっ!?」
「えっ!? ええ…」
「この次は、やはり、うな福の、うな重だっ!」
「はいっ! ご一緒します…」
「で、だっ!」
「もう、いいでしょ!」
 部下の刑事は、ついに切れた。
「…」
 そのとき現場下に、うな福の燃え残ったマッチが一本、落ちていたことを二人は知らない。
 もういいでしょ! と、切れてはいけないのである。^^

                            完

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2020年6月13日 (土)

楽しいユーモア短編集 (44)ほのぼの

 なんとなく心が温(あたた)かくるような状況を、人は[ほのぼの]と表現する。もちろん、[ほのぼの]とした状況が楽しい気分を人々に味あわせることは言うまでもない。こうした[ほのぼの]感は、どういう場合に生まれる雰囲気なのか? を暇(ひま)だから探(さぐ)ってみたい。そんな暇があったら、掃除の一つでもしろっ! と怒られれば致し方ないが、それも一理(いちり)あり、あとからします。^^
 とある時代の秋たけなわの光景である。快晴の空の下(もと)、とある運動場では秋の町民運動会が賑(にぎ)やかに繰り広げられている。大会本部に設(もう)けられたテントの一角では、バザーと呼ばれる婦人会の奉仕活動が始まっている。奉仕品は安い菓子バンや梨、みかん、リンゴなどの果物である。その場で食べられる、うどん・そばコーナーもある。事前に買い求められた食券との交換だ。なんともほのぼのとした長閑(のどか)な雰囲気が漂(ただよ)う。今の時代では消えた雰囲気だ。
「あれっ! 怪(おか)しいなぁ~、僕のみかんは?」
 袋の中を見て、弟が呟(つぶや)く。その隣の筵(むしろ)の上に座る兄が、知らぬ態(てい)で自分の袋の中を見る。
「お前、食ったんじゃねぇ~のかっ! あれっ! それよか、俺のパンがねぇ~ぞっ!」
「ふ~ん…消えたんだっ!」
「消える訳(わき)ゃ、ねぇ~だろっ!」
 正解は弟が兄のバンを食べ、兄が弟のみかんを食べた・・と、まあ、話はこうなる。なんとも、ほのぼのとした楽しい時代の一ぺージである。^^

                            完

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2020年6月12日 (金)

楽しいユーモア短編集 (43)邪魔

 総(すべ)てが自分の意に叶(かな)えば、それはもう楽しい気分になることだろう。だが、そういつもいつも叶うということにはならない。そこには、そうはさせじっ! と妨害(ぼうがい)する邪魔が存在する訳である。最近のような殺伐(さつばつ)とした時代では、特にその傾向が強く、油断は出来ない。邪魔に勝つには邪魔を知ることが必要となる。邪魔は邪魔をしよう…と、邪魔邪魔と刺す機会を窺(うかが)っているのだから、邪魔に刺されない防御(ぼうぎょ)が必要となる訳だ。そのためには邪魔を知ることが肝要となる。邪魔を知り、その対抗措置を事前に取れば、邪魔も邪魔邪魔と手出しは出来ず、魔が刺さないことになる。^^
 とある駐車場である。
「あんたの車、邪魔だよっ!! そんなところへ止めてっ!」
 駐車場の所定場所でもないのに、自動販売機があったから・・という、ただそれだけの理由で魔が刺して車を止めた男が、前方から出ようとした車の男に言いがかりをつけられた。自動販売機前の男は楽しい気分が台無しで、少しイラッ! とした。都合の悪いことに、自動販売機前の通路の幅(はば)は広く、避(よ)ければ十分、対向できたのがいけなかった。
「通れるだろうがっ!」
「なにっ!!」
「なにとはなんだっ! 車から下りろっ!!」
 二人の男は邪魔の計略に、まんまと乗ってしまったのである。邪魔は、ここしばらく邪魔邪魔していなかったから、ちっとも楽しい気分ではなかった。そこへ、とっておきの二人の男が現れた・・と、まあ話はこうなる。ところがそこへ、駐車場の老いた警備員がヒョコヒョコと歩いて二人の男に近づいてきた。
「まあまあ、お二人。そういがみ合わず、私の顔を立てて…。実は私、揉(も)めごとがあると、クビになるんですっ! ぅぅぅ…」
「はあ…」「…」
 泣き始めた老警備員に、二人の男は悪いことでもしたかのように一礼して矛(ほこ)を収(おさ)めた。邪魔としては、チェッ! いいとこだったのにっ!! くらいの気分である。片や二人の男は、しばらくすると老警備員を助けたような楽しい気分になった。老警備員も当然、ことがなかったから楽しい気分だ。邪魔だけが、ちっとも楽しくなかった・・ということになる。
 悪いことが起きたとき、邪魔は楽しい気分になる訳だ。^^

                           完

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2020年6月11日 (木)

楽しいユーモア短編集 (42)関係

 君とあの人はどういう関係なんだね? と訊(たず)ねられたとする。そのとき、ははは…なんか誤解されてますよね。数日前に偶然、出会った、ただそれだけの関係です…と、バックハンドで返したとしよう。すると相手は、それにしちゃ、偉く仲がいいじゃないか…と、フォアハンドのニヤけた笑顔で返して来られる。いやいやいや、関係はまったくないんですっ!! と真剣な眼差(まなざ)しで返し、それがエースとなり、相手は、ほぉ、そうか…と引いてポイントが加わる。結果、40-15で初制覇の優勝カップを手にし、蒼い天空を笑顔で見上げる。などといった関係は、恋愛関係で楽しい。^^ なにっ! 現場のアリバイがアリかっ! ホシとは関係ないな…という関係は事件の関係だから、ちっとも楽しくない。^^ ‎関係にも、人、物、その他と、いろいろある訳だ。
 とある撮影現場である。ロープが引かれ、関係者以外、立ち入り禁止・・の札が貼られている。
「あのっ! 私、関係者ですぅ~~!!」
「ははは…そうですかっ! で、どういった関係のっ!」
 ガードマンは、ニコリと笑って男に訊ねた。
「ええ、まあ…、それじゃ!」
 男はロープを跨(また)いで入ろうとした。
「と、言いますとっ!?」
 ガードマンが不審人物でも見るような目つきでジロジロと眺(なが)める。
「関係も何も、この映画関係のっ!!」
「分からん人だっ! だから、映画のどういった関係ですっ!!?」
「おたくも分からん人だなっ!! この映画関係といったら映画関係なんだよっ!!」
「だ・か・らっ!!」
「だ・か・らも、へちまもないっ!!」
 二人は言い争い、二人の関係は悪くなった。
 まあ、このように関係が悪くなれば、楽しいものも楽しくなくなり、逆によくなれば、楽しくないものでも楽しくなる・・ということだ。^^

                             完

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2020年6月10日 (水)

楽しいユーモア短編集 (41)接触不良

 電気物はちょっとした接触不良で上手(うま)く動かないときがある。映らない画面のテレビの横をポンッ! と決まりごとのようにご主人が叩(たた)くと映るようになったブラウン管の古いテレビをお知りの方は、よくご存知だろう。映れば理由はどうであれ、楽しい気分になる。^^ この接触不良は何も電気物などの機械に限ったことではない。人間関係が接触不良となれば仲たがいで絶交となり、会社だと契約がご破算になったりする。また、グローバル[世界的]な国対国ともなれば、国交断絶という怖(おそ)ろしいことになってしまう訳だ。
 ここは、とある有名女優をゲストに迎えた講演会場である。多くの聴衆が、会場をぎっしりと埋め尽くしている。講演時間はすでに過ぎている。場内アナウンスが流れる。
『音声機器の接触不良です。今、しばらくお待ち下さい…』
「おいっ! 田戸(たど)さんはどうなさったんだっ!!」
「はあ…なんでも台風の影響で新幹線が少し遅れてるようなんです…」
 地元の市長に叱られた責任者の商工観光課長は、か細い声で小さく返した。
「ったくっ!! 台風も台風だっ! 今、来なくてもいいだろっ! ちっとは、この市のことも考えてくれっ!」
 市長は訳が分からない屁理屈(へりくつ)をつけて、台風を叱った。
「はあ、台風に言われても…」
「やかましいわっ! 田戸さんで少しはこの市の宣伝になると思っておったんだっ!」
「年のわりに、お綺麗な方ですしねっ!」
「年のわりは余計だろうがっ! 失礼なっ!」
「はいっ! お綺麗な方ですっ!」
「有名な方が、うちなんかのちっぽけな市に来て下さるんだぞっ! こんな接触不良は困るっ!!」
「はいっ! そのとおりで…」
 その頃、会場はガヤガヤと騒ぎ出す者が出始めていた。
「おいっ! どうなってんだっ!!」
『まもなく、機器は直ります。今、しばらくお待ち下さいませ…』
 そのときである。会場の後方ドアに光が射(さ)して開き、田戸池子が悠然と笑顔で現れた。場内は割れんばかりの拍手に包まれた。田戸はゆっくりと前方へと進み、やがて登壇して場内に一礼した。場内は拍手喝采の嵐となった。その嵐が静まると、田戸はマイクに向かって話し始めた。
「ア~~ア~~! 直ったようですねっ!」
 田戸は主催者の顔を立てたのである。そして講演が始まった。
 接触不良は分からないように直すことで、楽しい気分になれるのである。^^

                          完

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2020年6月 9日 (火)

楽しいユーモア短編集 (40)盛り上がる

 これを、アップ・テンション効果[UT効果]・・と、私は勝手に命名した。^^ お店で客寄せのためにする、損(そん)して得(とく)取れっ! の安売りはデモンストレ-ション効果と呼ばれる経営の一手法だが、また、これとは違う。^^ 誰だって場がギスギスせず、和(なご)んで楽しいに越したことはないだろう。で、盛り上がることが必要・・と、まあ、こうなる訳だ。^^
 とある繁華街である。隣の店は大そう繁盛しているのに、その店は陰気で、今にも潰(つぶ)れそうに暗く、閑古鳥(かんこどり)がシラァ~シラァ~と鳴いていた。その前を一人の実業家が偶然、通りかかった。実業家は賑(にぎ)わっている店には目もくれず、興味が湧いた隣の潰れそうな店へ入った。
「ぅぅぅ…へい、いらっしゃいっ! ぅぅぅ…」
 店主が涙目で、そう言った。
「何かありましたか?」
「そういう訳ではないんですがね、お客さん。聞いて貰(もら)えます?」
「ああ、はい…。よかったら。私、こういう者です…」
 実業家は一枚の名刺を店主に渡した。
「実はですねっ! ぅぅぅ…この店、傾いてるんですっ!」
「でしょうな。どうも陰気に見えましたから…。なんでしたら相談に乗りますが…」
「無理なんです、ぅぅぅ…」
「どうしてっ! 言っちゃなんですが、私、これでも、ホールディングスの会長なんですよ」
「ホールディングス? 下水道の?」
「それは、ホールでしょ。ホールディングス、財閥ですっ!」
「ああ! 財閥さんでいらっしゃいましたか。それでも無理だと思います、ぅぅぅ…」
「どうして?」
「傾いてるんです、この店。地盤沈下(じばんちんか)で一年に数センチずつ…」
「ああ、そういや…。この店だけですか?」
「はい! 私の店だけ、ぅぅぅ…」
「ははは…そんなことでしたら、建て直せばいいじゃないですかっ!」
「お金が、ぅぅぅ…」
「これも何かのご縁だっ! 私が無償(むしょう)で出資(しゅっし)いたしましょう!」
「ええっ! ほんとですか!」
「私は過去、嘘(うそ)を申したことがございませんっ!」
「あ、ありがとうございすっ! ははは…」
「ははは…」
 次の瞬間、話が盛り上がった店内には後光(ごこう)が射し渡り、どういう訳か輝き始めた。
 話が楽しい雰囲気で盛り上がると、こうなる訳だ。^^

                           完

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2020年6月 8日 (月)

楽しいユーモア短編集 (39)込む

 急いでいるとき込んでいれば、誰だって焦(あせ)るだろう。ただ、その焦りにも個人差はある。込む場所に出食わしたとき、フゥ~~ン、込んでるんだ…と、ただ思い流せる人は達人で、それまでの楽しい気分を損(そこ)ねることはない。逆に、クソッ! 込んでやがるっ! …などと怒る人は、それまでの楽しい気分を損ねるか、酷(ひど)い場合はオジャンにする。オジャンにするとはパーにすることだ。分かりにくい方に、もう少し丁寧(ていねい)に説明すれば、パーにするとは、すなわち、オジャンにすることである。? 要は無くしてしまうことだ。フゥ~~、初めからそう説明すればよかった…。^^ 楽しい気分が殺(そ)がれるかは兎(と)も角(かく)として、ゴチャゴチャと込む状態が落ちつかないのは確かだろう。^^
 とある店である。パーゲンセールのせいか、いつになく込んでいる。そこへ、一人の常連客がやってきた。
「ははは…こりゃ、かなり込んでるなっ! 結構、結構!」
 そこへ、店奥から店主が現れた。
「おや、旦那(だんな)っ! 今日もお買い物ですかいっ!?」
 店主は、あんた暇(ひま)だね…と思ったが、言える訳もなく、紋切り型の挨拶でご機嫌を伺(うかが)った。
「そうだよっ! しかし、今日は込んでるねっ! 何かあるの?」
「おや、旦那? 知らなかったんですかい? 半年に一度のパーゲンセール、大安売りですよっ、旦那っ!」
 店主は旦那を強調して愛想笑いした。
「フゥ~~ン! それにしちゃ、品数が少ないようだけど…」
「ははは…まあねっ!」
 店主は、大きなお世話だっ! とは思ったが、それも言えず、笑って暈(ぼか)した。
「バーゲンセールなら、もう少し品数(しなかず)が多い方が、よかないか?」
「ええ、まあ…。じゃあ、ごゆっくりっ!」
 店主は、こちとら、都合ってもんがあるんだっ! あんたに言われたくないっ! 客寄せなんだよっ!! …と、切れる寸前になったが、切れる訳にもいかず、その場から退避(たいひ)した。そして店奥で、もう金輪際(こんりんざい)、客が込むパーゲンセールはやらんっ! と、決意した。
 込むことで、そこに居合わせた誰かの楽しい気分が消え去る。邪魔は、その僅(わず)かな隙(すき)を狙(ねら)っているのである。皆さん、ご用心、ご用心! ^^

                        完

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2020年6月 7日 (日)

楽しいユーモア短編集 (38)泰然自若(たいぜんじじゃく)

 少し小難(こむずか)しい四字熟語に泰然自若(たいぜんじじゃく)というのがある。尾頭(おかしら)付きの美味(おい)しい鯛(たい)の膳(ぜん)を前に、食べながら酒を独酌(どくしゃく)で飲む・・という意味ではない。^^ どんな場合でも、デェ~~ンと騒ぐことなく構えて落ち着いていることをいうらしい。そんな状態でいれば、物事がすべて冷静に見えるから、自然と楽しい気分でいられる・・と、まあ、話はこうなる。^^
 とある会社の機密情報がサイバー攻撃で漏洩(ろうえい)し、会社の上層部は慌(あわ)てふためいていた。
「ど、どうするんだね、君っ!」
「ははは…専務、落ち着いて下さいっ!」
「落ち着けって君! これは私達の責任問題だよっ! そんな泰然自若としていていいのかねっ!」
「そんなこともあろうかと、こちらも相手の情報はっ!」
「なにっ! それは本当かっ!」
「本当もなにも、コレコレシカジカですっ!」
 部長は専務に相手情報が書かれた書類を見せた。
「おおっ! コレは我が社以上の情報じゃないかっ! ははは…」
 専務は書類に目を通したあと、泰然自若とした二人は何もなかったような楽しい気分となり、専務室でスキップを踏(ふ)み出した。
 泰然自若が楽しい気分を呼ぶ・・という分かりやすい一例である。^^

                           完

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2020年6月 6日 (土)

楽しいユーモア短編集 (37)体調管理

 何事にも管理は大事だ・・という。それは、物事や物、人すべてに言えることのようだ。中でも自身の体調管理は大きなウェートを占める重要な管理事項だろう。んっ? 鍵(かぎ)はかけたか? などという些細(ささい)な次元の低い話ではない。^^ だが、管理し過ぎれば国会答弁となる。…いかがなものか・・ということだ。^^
 とある都会である。晴天に恵まれた朝、このとある都会のとある会場の一角(いっかく)で、ジョギングを兼(か)ねたショート・マラソン[10Km]が開かれようとしている。その片隅(かたすみ)で、隣(とな)り合ったゼッケンを付けた二人の男が話をしている。
「いやぁ~、私なんか、昨日(きのう)の健康診断でボロボロですわっ!」
「と、申されますと…」
「コレストローラーが正常の1.5倍、中性脂肪が、てんこ盛りの倍っ! ははは…冗談にも調子がいいとは申せませんっ! ははは…」
 話す男は、ははは…を二度繰り返して笑った。
「お元気そうで、なによりです…」
「ええ! 元気は元気なんですがな。なにしろ数値がっ! 体調管理は、なされておられるんですか? と、ははは…こうですわっ! わっははは…」
 話す男は、ははは…に[わっ]を付け加えて笑い飛ばした。聞かされる男も、数日前に検診を受けたのだが、数値に異常はなく、安心していた。ところが、数日前から風邪(かぜ)ぎみで、今日のショート・マラソンも出ようか出まいか迷っていた矢先だったのである。
「お元気そうで、なによりです…」
 聞く男は、笑い飛ばした男に、そう返すのが関の山だった。
「そういや、おたくは元気がないですなっ!」
 笑い飛ばした男は怪訝(けげん)な表情で聞く男を窺(うかが)った。
「いや、実は体調管理が不行き届きで、風邪ぎみなんです…」
「さよですか。そりゃ、いけませんなっ!」
 そのとき会場にアナウンスが流れた。
『皆さん! 開始五分前ですっ! 所定の位置にお付き下さいっ!』
「私、やめますっ!」
「ええっ! あっ! そうですか。そりゃどうも。お大事に…」
 笑い飛ばした男は、笑い飛ばさなきゃよかった…と反省した。
 ショート・マラソンは無事、終了したが、笑い飛ばした男は、ちっとも無事ではなかった。コース途中で倒れ、病院へ搬送(はんそう)されたのである。幸い軽症で、大事には至らなかったが、病室のペッドに横たわりながら、ああ、体調管理は大事だな…と、しみじみ思った。
 体調管理は個人の自由ではあるが、まあ、このお話のように楽しい生活を送るため、私達には侮(あなど)れないことのようだ。^^

                          完

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2020年6月 5日 (金)

楽しいユーモア短編集 (36)計画

 先々(さきざき)のことを、ある程度、考えて計画を立てておけば、物事がスンナリと進みやすくなり、楽しい気分になれることだろう。もちろん、計画を立てておいてもスンナリと運ばないこともあり、空振り三振の憂き目に会うから、出たとこ勝負! が楽しい気分になれる場合もある。^^
 二日先に迫った大型連休を控(ひか)え、村雨(むらさめ)家の小学1年の長男、正樹と幼稚園の長女、真菜がアレやコレやと計画を立てている。
「いやいやいや、そうはいかないよっ! この前も車だらけだったろっ?」
「…うんっ!」
「だから、ここのサービスエリアで半時(はんとき)は取っておかないと…」
「その半時は、どこかへ置いとけないの?」
「…それは無理だと思う。荷が多いし…」
「不便なのねっ!」
「いやいやいや、置いとけるか? パパにあとから訊(き)いてみる」
「だったら、計画はここまでっ! 蜜豆(みつまめ)っ!!」
「お前、蜜豆、好きだなぁ~」
「蜜豆の真菜って言われてるもんっ!」
「僕だって、焼き鳥の正樹て言われてんだぜっ!」
「ふぅ~~~ん」
 真菜は、焼き鳥の正樹は格好が悪い…と思ったが、顔を立てて聞き流した。近くで聞いていた父親は、余り時代劇は観せない方がいいな…と、新聞を捲(めく)りながら思った。結局、旅行の計画は進まず、無計画で終わったが、楽しい旅となった。
 無計画が楽しい計画になったという馬鹿馬鹿しいお話である。^^

                           完

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2020年6月 4日 (木)

楽しいユーモア短編集 (35)消耗品(しょうもうひん)

 消耗品(しょうもうひん)は傷(いた)めている訳でもないのに無くなるから交換しなければならない。無くなる前に前もって予備品を買っておけば、これはもう、心に余裕かせ生まれ、楽しい気分で過ごせることになる。特に食料品に至っては食べるという楽しい気分が待っているから、特に予備として買っておきたいだろう。^^
 どこにでもあるような、とある家庭の一場面である。楽しい気分で寛(くつろ)いでいたご主人だったが、何を思ったのか突然、アチラコチラと探し物を始めた。ところが目的のアレは、どこを探しても見つからない。
「おいっ! どこへやったっ!」
「なにをっ?」
「俺が、どこへやったって言えば、消耗品のアレに決まってんだろうがっ!」
「なによっ、偉(えら)そうにっ! ちっとも分かんないわっ!」
「馬鹿野郎! 何年、一緒に暮らしてんだっ!」
 先ほどまでの楽しい気分はどこへやら、ご主人の心は俄(にわ)かに湧(わ)き出した黒雲(くろくも)に覆(おお)われるかのように荒れてきた。
「… そうね、かれこれ30年になるかしら?」
「だろっ!? だったら、アレの場所は分かるだろ?」
「? アレってナニ?」
「そうだよ、ナニだよっ!」
「ナニは『予備を買ってきたから、一緒にアソコへ置いとく』って言ってたじゃないっ!」
「? …待てよっ! あっ! そうそう、アソコアソコっ! アソコだっ!」
 荒れた気分の暗雲(あんうん)はたちまち消え去り、ご主人の心にふたたび楽しい気分が訪(おとずれ)れた。
 消耗品の予備にゆとりがあったり、存在場所がはっきりすれば、心は安心感に満たされアレ→ナニ→アソコとなって、楽しい気分に浸(ひた)れる訳である。^^

                           完

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2020年6月 3日 (水)

楽しいユーモア短編集 (34)待つ

 待つという状況は、いろいろとある。しかも、その状況に置かれた個々の性格によって、展開に大きな差異を生じる。その性格の中でも、特にイライラしやすい気短(きみじか)な人の場合は待ち時間が長いと楽しい気分が損なわれる。そうだから、という訳でもないが、待つという行為は気長(きなが)な人が適しているだろう。^^ だが、そんなことを言ってられない小忙(こぜわ)しい世の中だから、気短な人でも待つことになり、そんな場合は、ややこしいことにならないよう、特に注意が必要だ。^^
 とある朝の駅である。鋤焼(すきやき)は、やっと取れた休暇で旅に出ようと駅へ入った。ところが、どういう訳か、この日に限って予約した特急・鯨(くじら)が崖崩れの影響で運休となってしまった。さあ! 哀(30)れなのは鋤焼である。どうにかならんかっ! と駅の切符売り場に駆け込んだ。
「そう言われましてもねぇ~。起きてしまったことですからっ!」
「それをなんとかするのが君達の仕事じゃないかっ!!」
 鋤焼はグツグツと煮え過ぎて少なくなった鍋汁(なべじる)のように駅員に絡(から)んだ。
「はあ…。ともかく、払い戻しはいたしますから…」
「払い戻しっ!? 払い戻しは当たり前だっ! 私の言ってるのは、この先、どうしてくれるのか! って話だっ!」
「はあ。噴潮(ふきしお)までの代行バスは出ますので、それでなんとか…」
「ほおっ! 代行バスは出るんだなっ!」
「はいっ!」
「それで、どれくらい待つんだっ!?」
「はあ、二時間ばかり…」
「に、二時間っ!!」
「はい…」
「も、もういいっ! 君では話にならんっ! 駅長を出しなさいっ!」
「あいにく駅長は急用のため、一時間前の特急・鴨鍋(かもなべ)で出られました…」
「特急・鴨鍋っ!? 鴨鍋と言やぁ、私が乗る鯨の前の特急じゃないかっ!」
「はあ、そのとおりです。なにせ崖崩れの前でして…」
「そんな馬鹿な話があるかっ! 駅の者が行けて私が行けんという話があるかっ!!」
「そう言われましても…」
 駅員は急に小声になった。
「も、もう、いいっ!! 二時間、待てばいいんだなっ!」
「はい…」
「なら、待ってやるっ! こうなりゃ、なにがどうなろうと待つっ! 待って待って待ちくたびれてやるっ!!」
 男は駅のベンチで怒りながら二時間後のバスを待つことになった。
 気短な人でも意固地(いこじ)にすれば、待つことが可能になるようだ。^^

                           完

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2020年6月 2日 (火)

楽しいユーモア短編集 (33)まずまず…

 世の中で起きる物事は、自分の思うようにならないのが常だ。物事が、七、八割がた上手(うま)くいけば、まずまず…と満足するのがいいだろう。100%思うようにしようとすれば、必ず何らかの軋轢(あつれき)を生むことになる。軋轢はカツレツのような食べるものではない。^^ 摩擦となるトラブルを生む・・といっようなことだ。まずまず…の心得で世を渡れば、思い通りに行かなくても、そう腹も立たずに楽しい人生を過ごせる訳だ。まずまず…は欲望を制御する、いわば車のエンジン・ブレ-キなのである。「美味(おい)しいわよっ!」と自慢たらしく出された奥さんの不味(まず)い料理に、まずまず…と我慢(がまん)する気分とは少し違うように思えるのだが…。^^
 ひと組の中年夫婦が泊まる、とある地方温泉の旅館である。旅行社で格安のクーポンを組んでもらい、旅行に出かけたまではよかったが、どういう訳かうらぶれた温泉で、他の観光客も疎(まば)らで、ほとんどいなかった。それに、どこか薄気味悪い感じがしないでもない。
「なんか、妙な温泉ね。旅館の人も陰気だし…」
「ああ、全然、観光客もいないしな…。まあ、料理は美味(うま)かったし、湯加減もよかったんだから、まずまず…と、しなきゃ!」
「そりゃ、そうだけど…」
「まあ、格安クーポンだから、こんなもんさっ!」
「そうね! こんなもんか…」
 二人は、陰気な温泉を気にしないことで、まずまず…と楽しみ、二日後、帰路に着いた。後々(のちのち)分かったことだが、その温泉は自殺者がよく出ることで有名な温泉だった・・ということだ。まずまず…と楽しい気分で帰れば、訳が分かったからといって、どぉ~~ってこともない訳である。^^

                            完

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2020年6月 1日 (月)

楽しいユーモア短編集 (32)次の日

 次の日が休みだと、心はウキウキとして楽しい気分になる。いや、なる場合が多い・・と訂正した方がいいのかも知れない。というのも、次の日が休みだとしても、楽しい予定ばかりではないということだ。世間の付き合いの柵(しがらみ)、妻に頼まれた用事の片づけ・・とかいった場合だ。この傾向は独身者より妻帯者の方が格段に大きいようである。次の日が休みでも、ポッカリと何の予定もない・・ということだってある。こんな次の日は、ただの次の日で、味も素(そ)っ気(け)もない日だ。^^ とかなんとか言ったって、それでもまあ、次の日が休みなら、誰だって、なんとなく楽しい気分、いや、ゆったりした気分に癒(いや)されることだろう。この傾向は、学校に通う生徒諸君、懸命に働く労働者諸君すべてに言える。乳児諸君、隠居諸君は、どうなの? ということになるが、…? まあ、そんなところだ。^^
 とある村役場の総務課である。次の日が休みということもあり、どの職員にも、どことなく楽しい気分が見て取れる。
「塩釜(しおがま)さんは明日(あす)、どうするんです?」
「私ですか? 私は鯛釣りですよっ!」
「なるほど! 塩釜さん、だけに…」
「はあ?」
「いや、失礼!」
「そう言われる猪尾(いのお)さんは?」
「私? 私は同窓会の牡丹鍋(ぼたんなべ)で一杯ですっ!」
「なるほど! 猪尾さん、だけに…」
「はいっ?」
「いや、別に…」
 二人の楽しい会話を聞いていた精進(しょうじん)は、『そりゃ、楽しいだろっ! 好き食ってりゃいいやっ!」と、ちっとも楽しい気分ではなかった。精進さんだけに…となる。^^
 楽しい次の日となるよう、皆さん、頑張りましょう。…頑張るものではないか? ^^

                           完

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