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2020年7月 4日 (土)

楽しいユーモア短編集 (65)鍋(なべ)もの

 寒い季節が巡ると、鍋(なべ)の登場となる。鍋だと、どういう訳か楽しい気分になる。鍋というのは、四季を通じて見かける調理用の鍋のことではない。要は鍋である。… 分かりにくいので分かりやすく説明すれば、美味(おい)しい美味しい具入りの湯気(ゆげ)を上げてグツグツと美味(うま)そうに煮(に)える、あの鍋である。ここでは各種ある鍋を総称して、[鍋もの]としてお話をしたい。どうでもいい方は、美味しい鍋でも突(つつ)きながら一杯やって下さればいい。あっ! 子供さんはジュースにして下さい。^^
 とある、どこにでもありそうな普通家庭の夕食場面である。
 鍋がグツグツと食卓で美味そうに煮えている。
「えっ! またオデンっ!」
 勉強部屋から出てきた高校生の長男が、開口一番(かいこういちばん)、愚痴(ぐち)った。中学生の妹と父親は、すでに席に着いていて、全員が揃(そろ)うのを待っている。
「ははは…そう言うな。オデンは鍋ものの常道(じょうどう)で、横綱だっ!」
「常道かなんだか知らないけどさ。僕は大関くらいのスキ焼がいいなっ!」
「スキ焼きか…。スキ焼きってんのは、別格だっ! 先代横綱ってとこだなっ!」
「パパ、先代横綱よりカニっ!」
「カニな…。カニもカニだけのことはある」
 そこへ調理場から母親が現れた。
「なに言ってんのっ! 鮭(さけ)の石狩鍋でしょ!」
「ああ~~っ! 味噌の土手(どて)鍋でなっ! ありゃ、美味いっ!」
 そこへ、離れからご隠居が、ゆったりと現れた。
「馬鹿もんっ!! 薬膳(やくぜん)のニラ雑水(ぞうすい)でいいんだっ! この贅沢者(ぜいたくもん)がっ!」
 一喝(いっかつ)された父親は、萎(な)えて沈黙した。だがその後は、賑(にぎ)やかで楽しい一家の夕食風景となった。
 鍋ものを囲むのは、孰(いず)れにしろ美味しくて楽しいからいい。^^

 ※ 風景シリーズに登場した湧水家の方々の特別出演でした。^^

                           完

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